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東出昌大は騒動を乗り越えて“聖の領域”へ?『Winny』で見せた、神々しい表情

そこにいるだけで画になる才能

©2023映画「Winny」製作委員会 筆者が美術応援スタッフとして参加した黒沢清監督作『クリーピー 偽りの隣人』(2016年)でもまた東出はつかみどころのない感じの刑事を演じていた。同作の主演俳優である西島秀俊は、長身であるはずなのに東出の前ではトム・クルーズくらいの背丈にしか見えない縮こまり方だった。モデル体型の東出は、でくの坊のように映りながらも、やはりただそこにいるだけで画になってしまう。  そこにいるだけで画になってしまうのはそれだけで才能だ。濱口監督や黒沢監督のように松本監督も東出を自分の作品に思わず出したくなったのだろう。画になる東出に強い関心を持ち、彼の素晴らしさを最大限引き出すために引きの画を選択した演出の妙を感じる。  壇の働きによって拘置所を出られた金子は、つかの間の憩いとして小さい頃から好きだった飛行機の写真を撮りに出かける。夕日の空を飛ぶ飛行機を熱心に見つめ、カシャカシャと丹念にシャッターを切る。高層マンションが屹立する隙間からのぞく夕日の方へ金子がゆっくり歩いていく。それがちょうど引きの画となり、夕景に浮かぶ東出の後ろ姿が神々しく浮かぶ。

東出昌大にとっての“巡礼の旅”

©2023映画「Winny」製作委員会 こうした東出の神々しさは、映画の画面上だからこそ感じるものなのかもしれない。というのもこの文章の冒頭で『寝ても覚めても』にふれたのは、同作が出品されたカンヌ国際映画祭で東出があるスキャンダルを世間に提供することになったからだ。その騒動によって東出は公私ともに窮地に立たされることになったわけだが、そうした世間(俗)からのバッシングとは裏腹に、映画の画面上ではむしろ眩い存在になる。  もちろん今さら過去の騒動を蒸し返したいわけではない。一度は“俗”にまみれたからこそ、東出は俳優として神がかることができたのだと考えるとどうだろう。今回、松本監督は東出をまるで“聖地”へと踏み込ませた。  結末にふれるので詳述はさけるが、東出が本作で最後に登場する場面では、引きの画ではなく、寄りの画(クロースアップ)が採用されている。大好きな飛行機に視線をやり、空を仰ぎ見る表情は、引きから寄りへうまく転換されることで、東出昌大にとっての“巡礼の旅”となったのだ。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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