猫がかわいかったら撮れなくてもOK!?猫の喜怒哀楽を撮影する“猫写真家”に聞く秘話
2023年3月3日に発売された「日常にゃ飯事」(インプレスブックス)。猫の喜怒哀楽と躍動感あふれる動きを撮影することで知られている写真家の沖昌之さんによる写真集です。猫の日常を垣間見ることができ、ページをめくるたび、ほっこり気分に。
沖さんは過去にも写真集を出版していますが、今回のものは、どうやら今までのものとは少し違うようです。ということで、「日常にゃ飯事」の制作秘話と魅力について、お伺いしました。
雑誌「デジタルカメラマガジン」で、2019年から手書きのキャプション付きの猫写真を連載していた沖さん。その連載をまとめた写真集の出版を編集者から提案されたときは、「簡単な再編集をするくらいかな?」くらいの感覚で引き受けたそうです。ところが――
「いざ作業を初めてみると、2年の連載の間にキャプションの筆致に少し変化があったことに気付きました。しかも口調に統一感がない。加えて連載時の写真だけでは、本としてのボリュームが足りません。だからといって、そこに新作を足すと、一貫性のない物語になってしまうという問題もありました」(沖さん、以下同じ)
このように編集者とやりとりを重ねているうちに、当初の予定から打って変わって、一から写真集を作ることになりました。
「譲れないところを除き、作業から距離を置くことが多いんですよね。独りよがりになると、出版社、編集者、アートディレクターなど、かかわる人の思いを反映させる余地がなくなるので。だから、『好きにやっていいよ』と言われたときは少し驚きました。」
こうして普段の写真集の制作とは違い、写真の選定、キャプションの言葉選びなど、ほぼすべて沖さんの意思が反映されることになったといいます。
「僕は変化球をつけたり、余韻を残したりといった、いい意味での分かりづらさを作るのが、苦手で、『ムードがない』と言われるくらいなんです。だから今回の写真集は、僕のストレート一点張りの性格がよく表れていると思います」
と、いいますが、そのわかりやすさもまた魅力だと、筆者はお話を聞きながら思うのでした。
沖さんの撮影する猫は、印象的な表情や姿を見せてくれるのが特徴。今回の写真集では、おみこしを担いでいるような躍動感ある猫が表紙を飾っています。
「宮城県の田代島で撮影しました。漁師さんが乗っているこのトラックに、知らない匂いが付いているのが気になるようで、体を擦り付けて匂いを上書きするんですね。
このことに気付いたのが1日目です。また同じことをやるだろうと思って、翌日に撮影したのが表紙の1枚ですね」
とても愛くるしい写真ですが、筆者は意地悪なことに気付いてしまいました。ピントが顔ではなく、お腹になっていることに……!
「しゃがんで構える余裕がなかったから、真ん中にピント合わせ、ファインダーをのぞかずにシャッターを切りました。しぐさも表情も最高なんですけど、確かにピントが顔ではないんですよね。
だから3日目も撮影したんです。すると、ピントが合った写真は撮れたけど、今度は2日目ほどの力強さがない。それどころか、意図して作ったような雰囲気があったんですね。結局、勢いを優先して、2日目の写真にしました」
と、話をしてくれました。写真1枚の前後にもそんな物語があったのですね。でも、なぜこの写真を表紙に選んだのでしょう?
「まず、猫を好きな人のテンション上がる、しぐさや表情がいいですよね。あと何かを持ち上げているような恰好をしているから、『丸太をかついているのかな?』とか『揺れるバスの中でつり革をつかんでいるみたい』とか、万人が何かを想像しやすいところがいいと思いました」
見た人すべてが気持ちやイメージを共有しやすいこの写真、採用されたのも納得です!
写真選びから添えられた言葉まで、自身のセンスが前面に
表紙の躍動感ある1枚はどのように撮影した?

