「どうせ自分なんか」と腐らない方法って?ジェーン・スーさんに聞いてみた
――スタイリストの大草直子さんが夫の転勤についていかないと決めたところで「逆に大草が転勤を命じられたとしたら」と投げかけたり、12歳で芸能界デビューして20歳で出産された辻希美さんの不安を「新卒で8年間必死に働いた女性が最初の育休で感じる不安」とされていたり、それらを読むことで自分自身、もしくは自分の身近にもあることだと感じられました。
ジェーン・スー:北斗晶さんは「酒・たばこ・男」が禁止で25歳で引退するのが通例だった当時の女子プロレス界で、結婚してもお子さんを出産されたあともお仕事をつづけられた。「結婚しても、子どもを産んでも、自分の仕事ができる場であってほしかった」とお話しされていますが、ご自身がやりたいことを筋を通しながら徹底的にきちんとやったことで、絶対に崩せないと思われていた常識や通例のようなものを、一気に崩されたんですね。潮目を作られた、といってもいいと思います。ご本人には社会運動という意識はなかったでしょうけれど、それと同じようなことをされている。女性一人ひとりの人生と、社会は強く結びついているとあらためて実感しました。
――個人的なお話になりますが、私はずっとロールモデルのような存在がほしいと思っていて……。
ジェーン・スー:実はこの『闘いの庭~』についての私に対するインタビューで、同じようなことをおっしゃる方、多いんですよ。それだけみなさん、ロールモデルがいないことを不安に感じていらっしゃるんだなと思いました。この人!と誰かひとりにロールモデルを定めるというのも考え方だとは思いますが、13人のなかから「この人は私と考え方が近い」「家庭環境に共通点があるな」「この人のこういう感性が好きだな」というポイントを見つけてもらえたらと願っています。
ジェーン・スー:この本を読み終わった方が「この人たちは、自分とは違う」とだけ思われたのだとしたら、それは私の筆の力が至らなかったのだと思います。と同時に、もし「自分とは違う」と感じたのなら、自分の何によってそう思うのか深堀りして考えてほしいなと思います。「どうせ自分なんか」と思うことは、性別、年代問わず多くの人が経験していますよね。私もそうでしたし、それによって自分のいろんなことが妨げられてもきました。だけどそれが一瞬で取り払われるような、ババーンッ!という決定的な何かって人生にはまず起きないんですよ。13人のみなさんにも、なかった。最初からすべてがお膳立てされていたなんてこともなく、ままならない社会で理不尽なことがあっても腐らず、目の前のことにコツコツ取り組むことで、自身を貫いてこられたんだと思います。私も、もっと早くに自分を信用してあげればよかったな。そんな自分を信用するきっかけを、この本から見つけてもらえたらうれしいです。
<文/三浦ゆえ 撮影/宮田浩史>

13人それぞれがロールモデル

決定的なことが起きない人生で
三浦ゆえ
編集者&ライター。出版社勤務を経て、独立。女性の性と生をテーマに取材、執筆を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(宋美玄著、ブックマン社)シリーズをはじめ、『50歳からの性教育』(村瀬幸浩ら著、河出書房新社)、『リエゾン-こどものこころ診療所- 凸凹のためのおとなのこころがまえ』(三木崇弘著、講談社)、『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)などの編集協力を担当。著書に『となりのセックス』(主婦の友社)、『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。
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