「妻は完璧すぎた。ありがたいけどだんだん胃がもたれてくるような感覚になりました。
もっと適当でいい、いいかげんでいい。ときには寝坊して髪を振り乱す妻くらいのほうが僕も気が楽だと思うようになってしまったんです」

共働きだから、もちろんマサオさんも家事を分担した。だが、妻は8割方、涼しい顔でやってしまう。
「僕が風呂掃除をする番だとバスルームにいくと、きれいになっている。さっき手があいてから簡単にやっておいたと妻は言うんですが、僕が時間をかけてやるよりよっぽどきれいになっている。そういうのもだんだんつらくなってきた。
自分の無能さを見せつけられているような気がして」
妻が弱れば、心から頼ってくれるのではないかと思ったこともある。実際、4年後に出産した妻は、その前後だけはマサオさんの家庭内の仕事を奪わなかった。だが、彼女は育休もほとんどとらずに仕事に復帰し、以前にも増して仕事をした。
「そんなとき仕事でコンビを組んでいた後輩女性と親しくなった。『先輩の奥さん、かっこいいですよね』と妻に憧れていた彼女と不倫関係になりました。『私は奥さんと違って何もできないけど』と言う彼女の部屋で、
ふたりで宅配のピザを食べながら映画を観てまったり過ごすのが心地よくて。妻とはそういうことができなかったから」
だんだん彼女の部屋に入りびたりになっていったマサオさんは、とうとう妻から“話し合い”を求められた。マサオさんの本心は、「話し合いなどしたくない」だった。
「僕は『私がいるのにどうして浮気なんかするのよ』と泣き叫ぶ妻を見たかった。見たかったというより、そうしてくれれば妻の元へ戻りたかった。
でも妻はクールに『あなたに何か不満があるならちゃんと聞くから、ふたりで話し合おう』と言った。妻は対等だからそういう言い方をしたんだと言うでしょうけど、僕はやはり下に見られているような気がしてならなかった。それは僕のコンプレックスなんでしょうけど……」