――ドナー側にはリスクがあるのでしょうか?
茂田:日本では同性パートナーが子どもをもつことに関する法律がなく、妊娠・出産をしていないパートナーは子どもと法的親子関係を結ぶことはできません。
ドナーと事前に「精子提供者は生まれた子どもを認知しない」といった合意を書面上で交わしても、何かしらの理由で子どもが「認知の訴え(ドナーに対して法律上の親子関係を求める裁判手続き)」を起訴した場合、強制認知(男性が子どもの認知を拒否した場合でも、強制的に認知させること)の事態に陥ることもあります。
子どもを認知するということは、養育費の支払いや相続義務が発生します。なので、財産目当てではないことを踏まえたうえで、起こり得るリスクも話さなければなりません。私たちは手紙を書いたり、何度か会って話したりして、最終的にはドナーと合意書を交わしました。
――合意書は自分たちで作成しましたか?
長村:テンプレートが存在しないので、自分たちで一から作成しました。私が合意書の骨組みを考えて、相手が気になる箇所を足して……という作業を繰り返してつくりました。
ドナーが将来結婚したい、子育てを一緒にしたいと考えるようになったときなど、さまざまなことを想定しながら、お互いが一つずつの確認作業を行いました。
――先ほど認知の話がありましたが、知人のドナーの方は認知したのでしょうか?
長村:私たちの場合、認知はしていません。認知は子どもにとって悪い影響はないと思うのですが、パートナーがいながら認知すると関係性が複雑になってしまうので、ドナーはドナーとしての関係性を保つことを選びました。
――将来、お子さんにはドナーやパートナーとの関係性について伝えようと考えていますか?
長村:子どもを授かった経緯や想い、そこに協力してくれた人がいること、いろいろな家族のあり方があることなど、嘘はつかずに話します。まだ子どもは1歳4ヶ月なので、一度伝えただけではわかりません。なので、年齢に応じて繰り返し伝えたいと思います。
――子どものいる同性カップルのなかには、周りの目が気になるという人もいるかと思います。お2人にもそのような心配はありますか?
長村:オープンにメディアで発信していると心配になることもありますね。たとえば、近所の人同士でコソコソ話しているのを見て、何の話をしているのかわからないのにネガティブに受け取ってしまったりとか。
少しでもネガティブな情報が漏れてしまうと子どもにレッテルを貼られてしまう可能性があるので、いろんな心配をしてしまいます。私たちが想像している以上に、人から見られているし、言われていると思うので。
茂田:逆に私はそこまで気にしていないんです。さっきの近所の話でいうと、たとえば私たちがしっかり挨拶してゴミ出しのルールを守るなど、私たちから悪い人ではないことを伝えることが大事かと思います。そのためには、自分がいかに堂々と振る舞えるか、元気で明るくいることが1番なのかな。
――同性カップルやその家族が過ごしやすい社会を実現するには、どのようなことが求められますか?
長村:「女性同士のカップルだから~」「お父さんがいないから~」という意見は多いと思うのですが、女性同士のカップルがネガティブな状況にいると感じている人がいるなら、味方になってほしいです。そして、助けてほしいと思います。
茂田:「いろんな人にとって、よりよい社会になるためにはどうしたらいいのか」という考えをもとに行動できたら、それが未来につながるのではないでしょうか。何かに任せるのではなく、自分で考えることが大事だと思います。
【前回の記事を読む】⇒
問題のある精子提供者にダマされることも。同性カップルが子を授かるまでの苦悩
<取材・文/Honoka Yamasaki>