33歳のとき、ひとり娘にも恵まれ、家庭はうまくいっているように見えた。夫とはケンカひとつした記憶がない。家事や育児にも夫は積極的だった。子どもが5歳になったころ、マンションを買い換えるかリフォームするかを話し合った。
「結局、リフォームすることにしたんです。
夫はいい業者を知っているから、段取りも全部オレがやるよと言ってくれて。結婚して10年近くたっていましたし、信頼していたから親の遺産が入っている口座の通帳を渡し、委任状も書いた記憶があります」

リフォームは、彼女が思っているのとはまったく異なり、かなり小規模なものにとどまった。なんだかおかしい、実際にはいくらかかったのかと聞いても夫は「まだきちんと金額が出ていない」などとのらりくらり躱す。
何かがおかしいと銀行に駆けつけると、親の遺産はほぼ全額、引き出されていた。あげく夫は、以前からつきあっていた若い女性と逃げてしまった。
「信じられなかった。残ったのはたまたま私が会社に通帳と印鑑を保管していた定期預金だけ。しかも1年後、一緒に逃げた女性から連絡があったんです。夫が病気だと」
迷ったあげく、彼女は娘を連れて、とある地方の病院に行った。夫はユカリさんと娘の姿を見て涙をこぼした。女性の姿はなかった。病気になった夫に用はなくなったらしい。
「それは私も同じですよ。だけど医師に聞いたら、余命いくばくもないという。あれこれ手を尽くして自宅近くの病院に転院させましたが、
それから1ヶ月もたたずに亡くなりました」