遺書といえるほどのものはなかったが、ノートが残されていた。1ページ目に震える文字でユカリさんと娘の名前が記されていて、「ごめんなさい」と書いてあった。その後はすべて余白だった。
「夫は勝手に数千万円を使って逝ってしまった。
思えば私が甘かったんでしょうね。忙しくて家事も娘のことも夫に任せてばかりいたから。夫からは何度も、平日はもっと早く帰ってきてほしいと言われていたけど、なかなか帰れなかった。お金を使われてしまったのは今思い出しても悔しい。あのお金があればと思うことも多々あります」
娘にはつい最近、お父さんのことを教えてほしいと言われ、ことの顛末(てんまつ)を詳しく話した。夫の悪口にならないように気をつけたが、娘は遺影を見ながら「クズだね」と言い放った。それでも彼がいなければ娘は産まれなかったし、「私はあなたが産まれてきてくれただけで、ラッキーな人生だったと思ってる」と娘に告げた。娘は少し照れたように笑った。

「
ママは男を信じすぎるからだまされたってことねと娘は言いました。でも知り合った当初の彼は本当に優しくて、落ち込んでいた私を救ってくれた人だった。それだけは忘れないようにしようと思っています」
恨み辛みもあるが、相手はもういない。だから思い出だけは少し美化してもいいような気がするとユカリさんは微笑んだ。
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<文/亀山早苗>
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