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自分を肯定できるのは身体を許すことだけ、軽度知的障害の女性のストレートな恋『初恋、ざらり』から目が離せない

“普通”を極めた岡村の人生

一方の岡村も、有紗の存在に救われているようだった。頭についたホコリを桜の花びらと表現したり、ミスをフォローしてくれたことを謝るために夜遅くまで待っていてくれたり。純粋でひたむきで素直な有紗の言動に、岡村は癒やされていく。 しかし、有紗に気はあるものの、年齢差が気になってなかなか踏み出せない。なんといっても彼は、とにかく“普通”であることを極めてきたような人間だったから。 幼少期から、自らの兄を反面教師に、親に怒られないようにその場の秩序を乱さずに生きてきた岡村。その真面目さが必ずしも評価されない理不尽を味わってなお、枠からはみ出ることができなくなってしまったように見える。

“普通”への憧れと、“普通”に囚われた人生が入り混じる

秀逸なストーリーとともに触れないわけにはいかないのが、小野花梨の好演だ。
自信がない、でも状況を打破したくて苛立ちも感じている、そんな有紗の内に籠る感情を、小野は目の色と握る拳の強さでこちらに訴えかけてくる。ともすれば白々しくなってしまいそうな周囲とのズレの表現も、絶妙な塩梅でリアクションを調整しているように感じる。 もちろん演技巧者の風間俊介も忘れてはならない。どこか危うさを秘める演技も繊細な演技もこなす風間だが、今回の岡村はどこまでも“普通”。裏があるようには見えず、同時に心配になるくらいお人好しでもある。これはこれでちょっと貴重なんじゃないだろうか(個人的には、そんな岡村が結構なヘビースモーカーで、風間がタバコを吸うたびに、ギャップにやられていたりもする)。 物語は3話まで進み、2人は付き合うことになる。両想いを確かめ合ったものの、「彼女になって」と言われていないから関係が進展していないと思っていた有紗と、すでに付き合っていると思っていた岡村。 その様子がじれったく、見ている側としてはかわいらしいと思ってしまうのだが、当人たちにとっては大きな問題である。 “普通”になりたい有紗と、“普通”に囚われた岡村。今はまだお互いに持っているものさしが、全然違う。 でもそれは有紗に障害があるからとか、岡村の年が10こ上だからとか、そういうことではない。これから2人は、言葉と行動でもってその差異を埋めていくのだろう。程度の違いはあれど、人間関係を築く上で誰もがそうするように。 ただ、そこには決定的な優しさがある。わたしはその優しさに触れたくて、これからもこのドラマを観るだろう。 <文/あまのさき>
あまのさき
アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。
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