うつ病からの“リハビリ”として婚活を始めた女性のその後。主治医の「結婚すれば?」で人生が激変<漫画>
――婚活を始めたことで、どんな効果があったのでしょうか。
石田:婚活という”補助線”があることによって、社会と繋がるためのスキルとテクニックがすごく分かりやすくなるんです。精神的な病を患うと自分のことがどうでもよくなってしまうことが多くあります。そこで婚活が、お風呂に入ったり爪を切ったり、基本的な生活を見直して、人間関係を作っていくモチベーションを上げるのに役立つんです。
最終的に結婚するかどうかはどちらでもいいと思います。「親友を作る」よりは現実的だし、上手くいかなくても支障がありません。私自身、診療仲間と婚活について話していて、そのプロセスに回復の知恵が宿ることを実感しています。
――結婚することよりも、行動してみる過程の方が大切なんですね。
石田:病気が少し寛解(かんかい)してきたところでリハビリがてらに婚活をするのがいいのではないかと思います。婚活はいつでも自分の都合で中止できるところが最大のメリット。少しでも「調子悪いな」と思ったらやめてしまえばいいんです。
ただ、精神的な病を抱える人は、危険な男性と付き合うことが多かったり、家族関係に問題を抱える方が多いです。暴力的な男性は排除して、原家族(自分が子どもとして生まれ育った家族)から脱出を試みるためには、生活や人間関係を見直すことから始めることが大切なのではないかと思います。
――婚活を始めた主人公が「世間話をするために世間を作る」という目的で、区民ジムや太極拳などに通って積極的に行動する姿が印象的でした。
石田:しんどい時はどうしても視野が狭くなってしまいがちです。だからこそ、なるべくキョロキョロしなければ「世間」ができないと実感しています。色々なところに行って、人を見ることが大切だと思います。
――にゅすけさんは、生き生きと輝き出す月美ちゃんの姿をどう描いていたのでしょうか。
にゅすけ:勇気を出した月美ちゃんの姿、社会の中で生き抜こうと走り出すところにリスペクトを込めています。ずっとキラキラしているわけではなく、反動でガツンと落ち込むところもあります。頑張ろうと思っても元に戻ってしまったり、行ったり来たりをしながらも前に進んでいく姿を描きたいと思いました。
――婚活中の女性は病気の方もそうではない方も、疲れて落ち込んでしまう時期があると思います。そういう時はどうしたらいいと思いますか?
にゅすけ:私自身、婚活をして疲れてしまった経験があります。そんな時の対策として、石田さんの原作にもあるのですが、「居場所の分散」がすごく大切だと思います。婚活一本勝負で一喜一憂してしまわないように、別の居場所を作るんです。私の場合は特撮が好きなので特撮仲間をいっぱい作って、婚活で嫌なことがあると「大特撮パーティー」を開催していました(笑)。
石田:素晴らしいですね(笑)。私としては、何よりも生活を大切にしてほしいです。この物語は婚活本なのに、お風呂と歯磨きをするところから始まっています。それは生活を大事にすることは、自尊心を大事にすることだと伝えたいからです。
病を抱える人の中には、「自分を大切にする」という意味が分からない人がいます。だからまずはしっかりと眠って、食べて、人と話す。足を動かして場所が変われば聞こえてくる話が変わります。嫌な男の人に出会ったら、仲間に「嫌な人だったね」と話す。自尊心を損なうような相手にはNOと言っていいんです。そしてNOと言えた自分を褒めてあげてください。そのためにも、まずはご自分の生活を第一にしてほしいなと思います。
【石田月美】
1983年生まれ。東京育ち。幼少の頃から周囲と馴染めず、浮き上がった自分を抱えながら過ごす。生き延びるための物語&How toを綴った『ウツ婚‼ ―死にたい私が生き延びるための婚活』を晶文社より2020年に出版。様々な精神疾患を抱えたまま、婚活し結婚し、不妊治療を経て、現在二児の母。
【磋藤にゅすけ】
1987年6月10日生まれ。東京都出身。2011年第13回アックスマンガ新人賞林静一個人賞受賞。代表作に『イカレた彼氏と4ねん付き合った話』『ご無沙汰ちゃんは××したい』『すねかじりアラサーのコロナ破産奔走記』等
(C)石田月美・磋藤にゅすけ/講談社
<文/都田ミツコ>
行ったり戻ったりをしながらも前に進んでいく
婚活で疲れてしまった時は?
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。



