ファンが見たかった長谷川博己全部乗せ『リボルバー・リリー』
長谷川博己にしかできない役がある。だが、コロナ禍もあってか、『麒麟がくる』以降の数年、出演作が少なく、CMだけでは物足りないと思っていたところ、久しぶりの大作映画に出演している。大正時代を舞台にした綾瀬はるか主演のアクション映画『リボルバー・リリー』(行定勲監督)である。街場の弁護士・岩見良明役は、ファンが長らく待ち望んだ、見たかった長谷川博己の全部乗せと言っていい。

©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ
元海軍で、山本五十六の後輩。飄々(ひょうひょう)としていて下町の私娼街 玉の井の人気者。主人公の百合(綾瀬)が巻き込まれた事件について調べ、なにかと協力する。洒落(しゃれ)た仕立てのいいスーツを着ていて、たばこを吸う手付きも決まり、一見、気障(きざ)な優男っぽいが、いざとなると結構強い。

©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ
アクションシーンの見せ場もある。頭がキレるが、時折、隙も見せてかわいいところも。百合が着替えているところをしばらく黙って見ているツッコミどころまである。
筆者は、映画のオフィシャルライターとして現場取材をし、パンフレットと関連書籍の記事を書いた。長谷川は、この人物はいかようにも想像が膨らんで面白かったと語っている。

©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ
詳細の明言を当人は慎重に避けているが、パンフレットでは岩見の衣裳を手掛けた白山春久による、衣裳を決めるときの証言を、映画の制作秘話を記録した書籍『映画「リボルバー・リリー」は何を撃ち抜くのか? 大正・パンデミック・戦争――日本映画の現場を伝える行定勲と80人の闘い』では、行定監督による、長谷川と幾度も話し合った証言や、綾瀬はるかによる現場での長谷川の様子などを掲載することができた。

©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ
多角的な視点によっていかに長谷川が役について考え抜いているかわかる。長谷川の考えた岩見像は、長浦京による原作小説や当初の脚本のイメージとはやや違っているが、それによって映画のなかの、大正時代の認識が奥深いものになった。
岩見のような役は、強いヒロインに都合良い、補佐役となり、献身的に彼女を見つめ支え続けたまま終わる人になりがちなのだが、長谷川が、言ってることとやってることが違うかもしれない”多面性のある人物”に造形したことで、そうはなっていない。

©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ
長谷川は、前述の『獄門島』や、舞台『赤い月』(05年)など日本が戦争をしていた時代(これらは昭和だが)の作品を演じてきているだけあって、様々な角度から掘り下げることができたのだろう。なんなら、岩見のスピンオフが見たいと思うほど、役のなかにみっちりと物語が詰まって見える。