――妊娠・出産に関する作品を描こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
真船佳奈さん(以下、真船):独身の頃から、「いつか妊娠・出産についての漫画を描きたい!」と思っていたので、妊娠してすぐにめちゃくちゃ細かいメモを取り始めました。出産した日も、子どもが病室に戻ってくるまで「何時何分に何をした、どんな状態だった」と全部書いていました。
担当の編集者さんに聞いたところ、育児コミックは大体2歳以降のお話しが多くて、妊娠~新生児期を一冊にまとめた作品が意外に少ないらしいです。私自身そこが1番辛かったし笑い飛ばしたい気持ちもありました。
――タイトルに「頼りになるのはスマホだけ?!」とありますが、妊娠前からそうだったのでしょうか。
真船:妊娠前からスマホで情報収集をしまくっていました。妊娠の超初期症状に当てはまっているかチェックして、生理の兆候と似ているので区別が付かず一喜一憂したり。妊娠検査薬は多くの製品が生理予定日の1週間後くらいから判定することができるのですが、その前からどうしても検査したくてフライングしまくっていました。
排卵検査薬も使っていましたし、妊娠検査薬は1本800円くらいするので、それだけで破産しそうになりました(笑)。だからネットで調べて中国製の1個50円から100円くらいの妊娠検査薬を大量に購入しました。それでも数時間おきに検査したりするので一瞬で消費してしまいました。

真船佳奈さん
――妊活はどれくらい続けていたのでしょうか。
真船:結婚してすぐ子どもがほしいと思っていたのですが1年半してもできなかったんです。1年以上妊娠しない場合は婦人科に行った方がいいと聞いたことがあったし、少し前に卵巣嚢腫(のうしゅ)の手術を受けていて、医師から手術は妊娠に影響ないと言われていたものの不安だったこともあって、思い切って不妊治療ができる病院に行ってみました。そこで私も夫も色々な検査を受けてタイミング法を指導してもらって授かることができました。
――妊娠してからはどんなことが辛かったですか?
真船:吐き悪阻(つわり)と食べ悪阻の両方があって、空腹でも、何か食べても吐いていました。毎日、何が食べられるかを自分に尋ねながら生きていましたね。最終的には生姜の酢漬けを食べると多少スッキリするので、そればかりたべていました。
――妊娠中の体調不良が医師からも「しょうがないよね」で済まされてしまう辛(つら)さに共感しました。
真船:その時点から「お母さんなんだから」というのが始まるじゃないですか。お医者さんは全く悪くないんですけど、悪阻の辛さも陣痛の激痛も「しょうがないよね」で済まされてしまう。そんな風に扱われるので、「お母さんなんだからこんなことで弱音を吐いちゃだめなんだ」と感じてしまう女性もいると思います。辛いものは辛いから、「お母さんだから」で片付けないでほしいな、つらいことはつらいって思っていいんだよという気持ちを漫画に込めました。
――悪阻で苦しむ中で、夫との気持ちのすれ違いが生じていったのでしょうか。
真船:私の場合、妊娠したら「何も悪いことしてないのに、どうして私1人だけこんな目に遭うんだよ?!」と思うくらい、急激に体が変化しました。私はすごく戸惑っているのに、それに対して外野のポジションから色々言ってくる夫に苛立っていました。
夫は夫で、今までのペースを急に変えることができず。そこで「私がこんなに強制的に体を変えられてるのに、何で夫は今まで通りで親になれるんだろう!」という憤りが生まれ、それをぶつけることができる相手も夫しかいない状況が当時はありました。
それまでは、お互いに大体のことは分かり合えるし察することができる関係だったんです。でも妊娠してからは、「話し合わないとわかりあえないこともあるんだな」と思うようになりました。