
『最後から二番目の恋』DVD-BOX(ポニーキャニオン)
坂口憲二とコーヒー。ここで彼が演じたある役柄を思い出さずにはいられない。中井貴一と小泉今日子といういかにもトレンディで大人な俳優がW主演したドラマ『最後から二番目の恋』(フジテレビ、2012年)だ。
中井扮する市役所務めの長男・長倉和平を家長とする長倉一家が、鎌倉を舞台に日常を送る同作で、坂口は次男の真平を演じた。心優しく、穏やかな性格の真平は、実家の一階スペースを使ってカフェを開店している。
開店前の朝は、コーヒーを丹念に淹れ、兄弟全員分の食事を用意する。そこへ隣家の古民家に引っ越してきた吉野千明(小泉今日子)まで出入りするようになっても、真平はちゃちゃっと笑顔で彼女の分も作る。
毎話ほとんど必ず描かれるこの好場面、さわやかイケメン店長は朝から大忙し。和平と千明の恒例の痴話喧嘩も微笑ましく、気ままな鎌倉の海辺ライフにも見える。でも実は真平には気苦労のタネがある……。
真平は重い病気を抱えているのだ。現実を直視しないようにするため、彼は周囲に不安を気取られないよう振る舞う。むしろ周りを幸せにすることだけを考え、孤独な女性を癒そうとする“天使”なる活動まで。
いつ自分がいなくなるかわからない。真平が日夜抱える不安と彼のライフスタイルが、まるでそのままその後の坂口憲二の人生をなぞるかのような役柄だったように思う。実際、坂口が自らの身体に違和感を持ち始めたのが同作撮影の頃だという。
だから筆者は、今回の坂口復帰でほんとうにあのドラマ内から天使のごとく真平が舞い降りた、あるいは再降臨したのではないかと本気で錯覚してしまったのだ。