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宇垣美里が「クマとかゾンビのほうがよっぽどマシ」と言う承認欲求のモンスター女性の顛末とは

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
宇垣美里さん

撮影/中村和孝

 そんな宇垣さんが映画『シック・オブ・マイセルフ』についての思いを綴ります。
映画『シック・オブ・マイセルフ』

『シック・オブ・マイセルフ』© Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Väst 2022

●作品あらすじ:ノルウェーの首都オスロ。主人公・シグネの人生は行き詰まっていました。長年、競争関係にあった恋人のトーマスがアーティストとして脚光を浴びると、激しい嫉妬心と焦燥感に駆られたシグネは、自身が注目されるために違法薬物に手を出します。その薬の副作用で入院することとなり、恋人からの関心を勝ち取ったシグネだったが、その欲望はますますエスカレートしていき――。 人気作品「わたしは最悪。」と同じ制作会社が作った異色の作品を宇垣さんはどのように見たのでしょうか。(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

足の骨を折った次の日、私はクラスの英雄だった

映画『シック・オブ・マイセルフ』

『シック・オブ・マイセルフ』© Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Väst 2022

子どもの頃、風邪を引いたらいつもよりちょっと優しくしてもらえるから嬉しかった。うっかり足の骨を折った次の日、私はクラスの英雄だった。可哀想な人間は分かりやすく注目され、ケアしてもらえる。皆が私の話を求める喜び、気遣わしげな眼差しの甘さ、その心地よさを知らないとは言わない。けれど、さすがに限度はある。あるよね……? アーティストとして脚光を浴びつつある恋人に強い嫉妬と焦りを覚えたシグネは、自分も注目されるために、皮膚のただれを引き起こす違法薬物に手を出した。結果、入院する羽目になった彼女は、思惑通り恋人や周囲の人間からの関心を勝ち取るが、その欲望と副作用はどんどんとエスカレートしていく。
映画『シック・オブ・マイセルフ』

『シック・オブ・マイセルフ』© Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Väst 2022

浮遊感のある洗練された映像で描かれるおしゃれでキュートなシグネは鼻につくものの、決してその感情が分からないではなかったのに。 自分は恐らく何者にもなれないと気づいた時の漠然(ばくぜん)とした寂しさと苛立ち。もっと注目されたい!と肥大化した承認欲求と暴走する自己顕示欲。よくいるちょっとした嘘つきだった彼女は、ある事件をきっかけに加速度的に嘘に嘘を重ね続け、気づけば取り返しのつかないところまできてしまった。

こんなリアリティあふれる隣人、地獄味がすぎて笑えない

理解の範疇(はんちゅう)を越える勢いで躊躇(ちゅうちょ)なく身を滅ぼすようになったシグネは、もはや捨て身のモンスター。正直クマとかゾンビのほうがよっぽどマシ、殺人鬼のほうがまだフィクションとして楽しめる。こんなリアリティあふれる隣人、地獄味がすぎて笑えない。だってもう私は何人かの顔が頭の中に思い浮かんで消えないのだから。
映画『シック・オブ・マイセルフ』

『シック・オブ・マイセルフ』© Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Väst 2022

制作陣の底意地の悪さをひしひしと感じさせる、自己顕示欲を痛烈に皮肉ったブラックユーモア満載のホラーコメディである本作。程度の違いはあるにせよ、誰の心にも彼女の持つ狂気の種が眠っているに違いないからこそ、決して他人事にはなりえない。 とにかく私からシグネに言えることは2つ。ひとつ、パートナーを傷つけるばかりの彼氏ととっとと別れろ。ふたつ、犬を絶対にそんな風に触るな。 シック・オブ・マイセルフ』 監督・脚本:クリストファー・ボルグリ 出演:クリスティン・クヤトゥ・ソープ、エイリック・セザー、ファニー・ベイガー 配給クロックワークス  © Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Väst 2022 【他の記事を読む】⇒シリーズ「宇垣美里の沼落ちシネマ」の一覧はこちら <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
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