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広瀬すずの瞳に宿る「触れてはいけないトゲ」とは。最新作で魅せた圧倒的な存在感

 2023年10月13日より『キリエのうた』が公開中だ。
『キリエのうた』© 2023 Kyrie Film Band

『キリエのうた』© 2023 Kyrie Film Band

 話題となっているのは、アイナ・ジ・エンドが映画初主演を果たした他、広瀬すず、松村北斗、黒木華らの豪華共演。そして、『Love Letter』『花とアリス』の岩井俊二監督の最新作であり、その集大成的な作品にもなっている。  上映時間はなんと178分。3時間近い尺に身構えてしまう人もいるかもしれないが、なるほど後述するさまざまな要素が重なり合ったパズルのような構成の物語を描ききるためには必要であったし、その長さを感じさせないほどのめり込んで観ることができた。 「長いようで短い旅」を追ったからこその、特別な余韻に浸ることができるだろう。  なお、公式サイトでは「地震描写および津波ならびに水害のシーンを想起させる描写が含まれております」などと記されているので、そちらも了承の上で観ていただきたい。  さらなる映画の魅力を記していこう。

パズルを解いていくような物語

 本作で紡がれるのは石巻、大阪、帯広、東京というそれぞれの地で、13年にわたり出逢いと別れを繰り返す4人の男女の物語だ。  3つの時代の視点が入れ替わるテクニカルな構成ながら、理路整然とした語り口であるため混乱せずに観られるだろう。  そこから浮かび上がってくるのは、「その瞬間だけ」では不可解だった誰かの気持ちを「わかろうとする」ことの尊さだった。現在(あるいは未来で)「なんでこんなことになっているんだろう」「この人は何を思っていたんだろう」と思える不可解な謎があるのだが、それらは過去に遡ることでじわじわとわかっていく。  断片的なピースをひとつひとつはめていって、やがて大きな真実と、それぞれの登場人物の想いがわかる。そんなパズルを解いていくような物語を楽しんでほしい。

その時にはわからなかった「痛み」が明らかになる

 その「なんでこんなことになっているんだろう」「この人は何を思っていたんだろう」という謎が特に目立つのが、広瀬すずが演じるイッコという女性だ。  彼女は真緒里という本名があるはずなのに、なぜかその名前も過去も捨てたようで、どうやら今は自分の住む部屋を持たず、複数いる元カレの住居を渡り歩いて(?)生活しているようだ。  実質的な主人公であるアイナ・ジ・エンド演じるキリエもまた、路花という本名があるはずなのに、そうは名乗っていないし、やはり特定の住まいを持たないまま東京に来ているようだ。  イッコは、普段は大きな声で話せないが圧倒的な歌声を持つキリエのマネジャーになると告げるのだが、「かつての知り合い」という以外では、「なぜそこまでするのか」の理由は、その時点ではやはりわからない。  その後に明かされるのは、壮絶なまでの2人の「痛み」だった。共に名前と過去を捨てた彼女たちが、ふたたびめぐり逢ったことは奇跡であると同時に、この東京のこの地に辿り着くまでにさまざまな出来事が折り重なった「理由」がある。その先に待ち受けていた出来事に、涙する人は多いだろう。
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広瀬すずの目に宿る「触れてはいけないトゲ」
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