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広瀬すずの瞳に宿る「触れてはいけないトゲ」とは。最新作で魅せた圧倒的な存在感

広瀬すずの目に宿る「触れてはいけないトゲ」

「圧倒的な歌声」が必要な役を見事に体現しながらも、儚さと芯の強さを両立させるアイナ・ジ・エンドは映画初主演とはとても思えない存在感だ。そして、その彼女を「引っ張っていく」立場のミステリアスな女性を広瀬すずが演じたということも、もはや奇跡的だと思えた。  なぜなら、広瀬すずは最近では映画『流浪の月』や『水は海に向かって流れる』などで、どこにでもいる普通の人、はたまたクールに見えると同時に、「過去を隠している」役柄にも実にマッチしていたからだ。  それは、彼女の「伏し目がち」な時の顔、その細い目に、繊細さだけでなく危険性を感じさせる、誤解を恐れずに言えば「触れてはいけないトゲ」のような印象を持たせるからではないか。  この『キリエのうた』での広瀬すずは表向きは天真爛漫で明るい女性に「見える」のだが、そのことがむしろ「カラ元気」だったり「空虚」な印象を強くさせる。  その後に明かされる事実は「やっぱり……」と切なくもなるのだが、それでもなお「生きる」ことを証明し続けるような存在感と演技に圧倒されたのだ。

人間の愛情を「信じている」岩井俊二監督の優しさ

 純粋な青年である一方で少しだけ軽さを感じさせる松村北斗、観客にもっとも近い立場で物語を追う小学校の先生役の黒木華も、これ以上は望めないキャスティングおよび演技だった。  『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて』でも岩井俊二監督とタッグを組んだ小林武史の音楽の相乗効果も相まって、二度とないであろう、映画のマジックが起こっていた。  取り返しのつかない悲劇や人間の悪意を容赦なく描いても、どこかで人間の愛情を「信じている」。そんな岩井監督の優しさがこれまで以上にはっきり打ち出されており、その意味で集大成的な作品でもあった。  さらに、出逢いそのものの喜びや、その時にしかなかった尊い関係性も描かれる。そして、過去は変えられないが、それは良いことであれ悪いことであれ、現在に繋がっていく。  それらを持ってして、4人の男女には、確かにかけがえのない時間があったのだと心から思えるだろう。複雑な感情が胸いっぱいに込み上げてくるような旅を、ぜひ映画館で見届けてほしい。 <文/ヒナタカ>
ヒナタカ
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF
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