
Robert Johnson Guitar Signature Licks Series(Hal Leonard)
岩田扮するさんまが登場するのは、漫才ブームにわく1980年代。後にビートたけしと『オレたちひょうきん族』(フジテレビ、1981~1989年)を最高視聴率27.3%の黄金番組に育て上げることになる、その前夜から物語は静かに始まる。
狭いアパートの一室でさんまが見ていたのが、ブルースギターの超人ロバート・ジョンソンのドキュメンタリーだった。ロバートが超人と呼ばれる所以は、彼が悪魔に魂を売った代わりに人間技とは思えないギターのテクニックを手に入れたことである。
俗にクロスロード伝説と呼ばれるこのエピソードを知ったさんまが、自分もお笑いになら魂を売ることができると闘志を燃やす。ロバートの代表曲「クロスロード・ブルース」がブラウン管から流れる。
ブルースをこよなく筆者からすると、まさか岩田剛典とこの歴史的な名曲がクロスするとは夢にも思わなかった。
さて、さんまは、そこから加速度的に頭角を現す。舞い込んだチャンス。高田純次の代役としてたけしとの初コントを任されたさんまは、台本にはないアドリブをかまし、たけしに一目置かれる。
だが、人見知りなたけしは本番が終わると、さんまと目も合わせないで帰ってしまう。自分は好かれていないのではないか。若きさんまは、素直にへこむ。そんな心境を知り合いのプロデューサーに吐露する楽屋場面で岩田が輝き出す。
現在のさんまからは想像がつかない繊細な表情が鏡に写る。鏡と岩田剛典……。なるほど、この組合せでは例えば、岩田の出演近作『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(Netflix)では、王子役の刹那を鏡上に映じていた。
鏡の中の岩田は、これ見よがしではなく、あくまで控えめに、そして繊細に配慮している。岩田が鏡越しに一瞬のぞかせる表情をカメラがさっとつみとるような感じ。