メディアに引っ張りだこだった天才子役の“驚きの現在”。最新作で見せた特別な才能
変声期特有の声がすばらしい
そこらの同世代とは落ち着き度合いが違う。芸歴がそのまま人格を形成し、育んだ特別な才能だ。
声が低くなったとは言え、変声期特有の繊細な不安定さがふるえる。中音域やや低めあたりを揺れ動くのがいい。
ラジャー役は文句なしに素晴らしかった。キラッキラの琥珀色の瞳を持つラジャーに豊かな中音域を吹き込む。これが妙に甲高かったりすれば、リアリティは感じられなかったはず。
何せラジャーこそ、人間の女の子・アマンダ(鈴木梨央)が想像し、生み出したイマジナリーフレンドなのだ。
寺田の声のリアリティが、このイマジナリを完全に現実の存在として立ち上がらせている。寺田の声を導きとして、たくさんのイマジナリたちがスクリーン上を躍動する。
寺田心の声が最高に輝く場面「僕は消えたくない」
アマンダとラジャーとの約束がとにかく胸を打つ。「消えない、守る、絶対に泣かない」。だからラジャーは何があっても泣かない。イマジナリを食べて生きながらえる悪漢のミスター・バンティング(イッセー尾形)によって、二人は離れ離れになるが、それでも泣かない。
イマジナリは、認識されなくなると、消えてしまう。でも、ラジャーは「僕は消えたくない」と強く誓う。こういう場面で寺田の声が最高に輝き、ラジャーの表情に深みある性格を与える。
「絶対に泣かない」と言われているというのに、ぼくら観客はその約束を守れない。アマンダが父親に買ってもらった傘を母のリジー(安藤サクラ)が開く場面があるのだが、あれには参った。
アマンダとラジャー。人間と単なるイマジナリではない。とても月並みな表現だが、かけがえない関係がそこにはある。
きっとその関係性が担保となって、本作の世界が現実以上にリアルだと感じられるのかもしれない。
豊かな気持ちを自由にシェアし、想像し合える、かけがえない誰かを連れて、ぜひ劇場に足を運んでほしい。
<文/加賀谷健>
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