口コミ効果で興行収入うなぎ登り!“実写化”ではなく“映画化”を目指した要素に原作ファンも納得|映画『カラオケ行こ!』
1月12日より、映画『カラオケ行こ!』が公開している。
原作は、1巻完結ながらも累計60万部を突破した和山やまによる同名人気コミック。本作のメインキャラクターは、ヤクザの成田狂児(綾野剛)と変声期に悩む合唱部部長の岡聡実(齋藤潤)のふたり。狂児は組のカラオケ大会で最下位になった者に待ち受ける“恐怖”を回避すべく、なんとしても歌を上達させなければならない。そこで、合唱コンクールで目をつけた中学生の聡実に歌のレッスンを依頼。年齢や社会的立場を超えた奇妙な関係を育んでいく。
この映画はいわゆる原作の実写化ではなく、“映画化”を目指した作品だという。まさにその言葉が腑に落ちる内容で、とくに原作ファンにこそおすすめしたい作品となっている。本稿では、その理由を書き記しつつ、魅力を語っていきたい。
多くの原作ファンが映像化に求めるのは、原作に忠実であることだろう。だが、本作をファンに勧めたい理由は、原作には描かれていないオリジナル要素にこそある。
映像化にあたり、新たなキャラクターや設定が追加され、一部オリジナルストーリーが繰り広げられている。たとえば「映画を見る部」や合唱部の描写が当てはまるが、それらは聡実の思春期ならではの悩みや葛藤など、パーソナルな部分を深堀する役割を持っている。そのため映画のなかでは、聡実というひとりの人間の解像度が格段に上がっているのだ。
つまり、オリジナル要素が加わったことにより奥行きが生まれ、原作のストーリーや人物への理解度がさらに高まるということ。それらは付け足しではなく、“肉付け”や“補完”と言いたくなるほどの自然さで物語に馴染んでいる。
本作の脚本を担当したのは野木亜紀子。『逃げるは恥だが役に立つ』や『重版出来!』(ともにTBS系)、映画『アイアムアヒーロー』など、原作が存在する作品を多く手掛けている。彼女の脚本の魅力は、描写の巧みさや作品に対する洞察力の高さにあるだろう。それゆえ、たとえ原作にないシーンが挿入されていても世界観を損なわず、むしろよりクリアになっているとさえ感じるのである。
また、歌唱シーンや音の表現も、原作への理解を深化する要因となっている。従来、音楽を扱った漫画は映像化が難しいと言われてきた。その理由は、音や歌声が直接的に聞こえない漫画は、読んでいる時点で頭の中に各々のサウンドが思い描かれているからだ。カラオケシーンが多く存在している本作も、狂児は、聡実は、どんな声をしてどんな歌い方をしているのか……少なからず想像していたが、そのハードルをいとも簡単に超えてきた。
本予告で一部公開された狂児の勝負曲・X JAPANの「紅」は、全編裏声で鬼気迫るほどの情念を表現。真剣なのに笑えるという塩梅が秀逸だった。
本編では、狂児と同じく“恐怖”を逃れたいバラエティに富んだヤクザの面々も歌声を披露。「月のあかり」(桑名正博)や「行くぜっ!怪盗少女」(ももいろクローバーZ)など、昭和の名曲から令和のヒットソングまでをユーモアたっぷりに歌い上げる。歌い方から表情までもがまさに”解釈一致”と言ってしまうほどマッチしており、原作で描かれた歌唱シーンにますます磨きをかけている。
原作を補うオリジナル要素による”肉付け”
歌唱シーンの納得の再現率
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