――作品中で、主人公が夫の病気について誰にも相談できないという描写がありました。当事者としては、打ち明けにくいものなのでしょうか?
吉田いらこさん(以下、吉田):私自身なかなか周囲の人に言えませんでした。一度、高校の部活の友達に話したことがありましたが、友達は言葉を失っていてすごく引いていましたね。
その様子を見て「これ以上は負担をかけるから話してはダメだ」と思って途中で止めました。
――もし悩みを打ち明けられたら、どんな風に話を聞けばいいと思いますか?
吉田:ただ「うんうん」と話を聞いてもらえたら、それが1番いいのではないかと思います。昔の彼氏に打ち明けたとき「俺はもっと大変な人を知っている」と言われたこともありました。
これはダメな感じの人と付き合ってしまったなと思いました(笑)。
――主人公が同僚に悩みを打ち明けたとき、同僚が介護の経験から主人公の悩みに寄り添ってくれていたのが印象的でした。
吉田:漫画を発表してから色々なメッセージをいただくようになったのですが、私に似た体験をした方が沢山いらっしゃったんです。
その方達の「私はこうやって受け止めていました」というお話しを参考にしました。介護を経験された方のお話しは「父の看護と似ている部分があるな」と共感しましたし、私よりも余程辛い環境で介護をされている方がいることを知りました。
――介護をしている方は、どんな風に辛い気持ちを乗り越えているのでしょうか。
吉田:達観している方が多く、悩みの先にいるような印象を受けました。「どんな環境を与えられても、これで生きていくしか仕方ないんだよ」という考え方に感銘を受けました。
――主人公に対して「自分の人生を見失わないで」というアドバイスがありましたが、吉田さんはどう思いますか?
吉田:これは私自身の気持ちなんです。読者のメッセージを読むと、実生活で介護をしていた女性が介護系の進路に進んだケースが圧倒的に多いんです。「家族の役に立つから」という理由が多かったと思います。
介護の道を選ぶことは素晴らしいことですが、「もしかしたら本当は他にやりたかったことがあるんじゃないかな」ということが少し気になりました。
実際に「介護のために進路や好きな仕事をすることを諦めました」という声が結構ありましたし、挑戦してみたいことが皆さんあったのかもしれない。「皆が好きな進路に進めたらいいな」という思いを込めて描きました。
その点では、私の母は子供の進路に一切口を出さなかったです。「女の子だから家に残って父の介護をしてほしい」ということも全く無かったので、私は本当に恵まれていたんだなと思いました。

吉田いらこ『夫がわたしを忘れる日まで』(KADOKAWA)
――お母様がほとんど1人で介護などをされていたのでしょうか。
吉田:そのことについては、母に対して「私は自分の人生を楽しんでしまった、悪い娘だったかな」という罪悪感がありました。
でも同時に、親だったら私の母のように「子供には我慢をしてほしくない」と思う人が多いんじゃないかとも思います。