「遊女が主人公のマンガ」に女性が惹かれるワケ。描かれる問題は現代に通ずるところも
多くの男性を惹きつけてきた、江戸幕府公認の遊郭・吉原。江戸時代末期には4000人ほどの遊女が暮らし、男性客の相手をさせられていたそうです。
そんな吉原や遊郭に惹きつけられるのは男性だけではないようで、『さくらん』(安野モヨコ/講談社)や『花宵道中』(斉木久美子・宮木あや子/小学館)、近年では『十億のアレ。~吉原いちの花魁~』(宇月あい/ハーパーコリンズ・ジャパン)など、遊廓を舞台とし、女性読者を想定したマンガの数々が出版されています。
なぜ女性たちは遊郭や遊女に惹かれるのでしょう? 来店者の8~9割が女性という遊廓専門の書店「カストリ書房」の渡辺豪さんに話を聞いてみました。
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――渡辺さんは、吉原があった台東区千束でカストリ書房とカストリ出版を営まれていますが、そのユニークな活動のきっかけはなんだったのでしょう?
渡辺豪さん(以下、渡辺):もともとは、漠然と古いものが好きという感覚があって、それを自分の中で突き詰めて考えてみたところ、目の前で消えていくものに対しての興味だとわかったんです。なので、私が興味を持っているのは近現代、特に戦後の遊郭が多いです。まさに、その歴史や建物が今、無くなりつつあるから。その状況を受けて、遊女や遊郭を取り巻いていた実態を伝えていきたいと思って、書店と出版社を始めました。
お店を開くにあたって、吉原跡に店舗があることが重要だと考えました。吉原の跡地は今でも風俗街だからなんとなくハードルを感じる人もいるでしょうが、そこに本屋があるとわかれば一気に来やすくなると思って。
――そんな実際の遊郭と遊女に詳しい渡辺さんから見て、マンガなどで描かれる遊郭や遊女についてはどう思っていますか?
渡辺:前提として、私は遊女を題材としたエンタメコンテンツを網羅的に知っているわけではありません。ただそれでも言えるのは、近年は、苦境をはねのけながらたくましく、したたかに生きる遊女像を描いた作品が多くなってきたという印象です。古い作品は、遊女は受け身的な立場で、自由意思のない犠牲者という立ち位置で、ある種の残酷物語として描かれてきていたと思います。
――遊郭を舞台にした女性向けマンガでは、主人公の遊女が遊郭で地位を獲得していくような、いわゆる“お仕事モノ”に近い側面も見受けられます。現代を舞台としたお仕事モノならば、転職や結婚、起業などの選択肢がありますが、遊女の場合はとにかく働くか、身請けされるかという厳しいシチュエーションを用意できるのかもしれません。そもそも、生活苦のために売られるというどん底に不幸な境遇も人々の興味を惹きつけるのでしょうね。
渡辺:そのお話を受けて話させてもらうと、作り手自身が必ずしも遊郭の歴史を掘り下げたいと思っているわけではなく、あくまでも劇的なストーリー展開ができる“舞台装置”として採用している作品は多いと思います。遊廓の中でも描かれるのは恋愛や仕事や人間模様のこと。つまりは、現代が抱える問題や意識を遊廓があった時代や場所に置き換えて、あくまでも現代性を描こうとしているということですね。
ーー読み手も作り手の意図と同様に、遊廓の歴史への興味というよりもストーリーに引き込まれているということですね。
渡辺:それから私は、世間一般の遊郭への認識って「無関心」なんだろうと思っています。ほとんどの人は遊郭や遊女に対して漠然としたイメージだけ持っていて、それ以上に深く知る必要は感じていないでしょう。
だからこそ、遊郭を舞台にしたコンテンツでは「吉原では火事で閉じ込められた遊女が何百人も死んでしまった」とか「当時のお金持ちがいくらで買った」とか「きらびやかな衣装を着ていた」みたいな刺激的なエピソードで盛り付けをしないと関心を呼び起こせない状態です。発信側が興味を惹きつける内容を選んで発信するので、そういった衝撃的な部分ばかりが目につくのだと思うんですよね。
近年の“遊廓が舞台の作品”の傾向
遊廓は劇的なストーリーを展開するための“舞台装置”
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