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「素晴らしい才能」「見つめたくなる魅力」青春映画の名匠が絶賛する20代俳優とは

社会としての家庭も描きたい

『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』――達郎から最初に勧誘される小西を演じる小倉史也さんとのトリオはどうでしたか? 古厩:3人目の活かし方は難しいものです。それは日本の映画界では、ある役柄に対する役者の席が一つしかないことが多いからでもあります。一人のところに必ず同じような役がくる。例えば、風采が上がらない感じなら、宇野祥平さんみたいに。 アメリカ映画ならもっと幅広いものですが、でも、今回の小西的な役回りの席はあまりないので、器用な小倉さんならしばらく独占できると思います(笑)。彼は、『20世紀少年』の子役やCM作品などで大活躍しています。 ――さらに思うのは、家族の描き方です。山﨑賢人さんを筆頭にした、青春キラキラ映画は2010年代に黄金期を迎えました。ほとんどの作品では、ティーンの関係性に焦点を置くため、日常の背景となる家族は不在として描くことが多いです。でも本作では、翔太の父親である斉藤陽一郎さんの登場など、家族との関係性も含めて青春の群像が描かれるのが興味深いです。 古厩:達郎と翔太の家庭環境は、実話をベースにしています。元ネタのモデル本人たちに話を聞くと、実際にお父さんに対してわだかまりや静かな怒りがあったり、家庭に問題があることに気づき、「社会としての家庭」も描きたいと思いました。 先ほど話題になったヒップホップ映画で描かれる家庭環境は、ほんとうに劣悪なものですよね。主人公たちは、出口がない場所でもがき、ヒップホップやスケボーに心血を注ぐ。それと同じように、達郎と翔太もeスポーツに挑戦するんです。 ――伝説のヒップホップグループ「N.W.A」を描いた『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)の舞台であるコンプトンでは、ギャングになるかラッパーになるかでしたね。そうしたせめぎ合いの中にストリートな感覚が根付いていましたが、今の日本で考えた時、ストリートな感覚としてeスポーツに向かう必然性はどんなところに? 古厩:仰る通り、コンプトンには、紛れもないストリートがあります。じゃあ日本にもストリートはあるのか。例えば、川崎のセメント通りはどうかと考えるけれど、少し意味合いが違う気もする。 確かに川崎出身のラッパーはたくさんいます。でもほんとうにギャングがいるようなコミュニティではなく、各々が孤独なタコツボ的なものです。日本にはストリートがないんですよね。それなら逆にリアルではないオンラインならどうか。eスポーツのバーチャル空間でストリート的に繋がるなら、むしろこの先、ストリートな感覚が根付くのかもしれません。

地方の“小宇宙”だからこそ表現できる力強さ

『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』――海町の塩辛いロケーションもストリート感に寄与していると思いました。圧倒的に海が見えるのではなく、ちょろっと見える感じ。主人公たちと徳島の海が共存しているロケーションの魅力があります。 古厩:元ネタのモデルたちが実際に通っていた学校とその近辺で撮ろうと思い、ウロウロしながら好きな場所をロケ地に決めました。僕はどうもスモールタウンが好きなんです。ティム・バートン監督やスピルバーグ監督の作品もだいたいそうです。「ここが俺たちの小宇宙」みたいな(笑)。東京で撮るとなると、これは難しいです。 ――東京で撮っているのに、東京に見えない『トウキョウソナタ』(2008年)の匿名性など……。 古厩:そうです、黒沢清監督はいつも川の隅など、街の端っこ、エッジに行くんです。エッジじゃないと東京は写らないんですよね。 ――東京ではない、地方の小宇宙だからこそ、そこから拡大されていく力強さがありますよね。そしてその小宇宙に今回は監督自ら、実況者役でだいぶ参加されていますね(笑)。 古厩:『ロボコン』での成功体験があったからだと思います。ロボットコンテストの場面で、自分で実況したら、うまくいったんです(笑)。自分の声をあてているので、編集もやりやすかった。 それならじゃあ今回もやってみるかと。でもちょっと出過ぎましたね。当たり前ですが、出演している間はチェックができないんです(笑)。 ――自作にチラッと顔を出すことで有名なヒッチコック監督どころではない出演でしたね(笑)。 古厩:はい、それどころじゃないです(笑)。 <取材・文/加賀谷健> 『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』 3月8日(金) 全国ロードショー ©2023映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』製作委員会               配給:ハピネットファントム・スタジオ
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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