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「素晴らしい才能」「見つめたくなる魅力」青春映画の名匠が絶賛する20代俳優とは

「ヤバいやつとは正反対の、優しく華がある鈴鹿くん」

『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』――一点透視的な奥平さんに対して、鈴鹿央士さんは多方向的だと思います。映画やドラマだけでなく、NHKのコントバラエティ『LIFE!』にも出演するなど、振り幅があります。監督にはどんな姿が映りましたか? 古厩:鈴鹿さん演じる達郎をちょっとヤバいやつにしたいとは思っていました。どこか人を人とも思っていない、見ていない。そんな子が、人を人として見ていく話。かと言って、ほんとうにサイコパスっぽく見えるのもマズい。  じゃあヤバいやつと正反対の、優しさがにじみ出ていて、なのに凛とした中心があって思わず見つめたくなる魅力がある、そんな鈴鹿くんがやってくれたらどうだろうと考えました。 ――カメラを通して見たときはどうでしたか? 古厩:人を人とも見ていないサイコパスをツンとした雰囲気で演じることは難しいことではありません。むしろ、そのツンが解けていく過程を表現することが難しいわけです。どう変化するかなと見ていると、鈴鹿くんはすこしずつ目が開いていくように演じました。目が開く、世界が見えてくる、心が揺れる……というふうに。赤ちゃんが物を初めて見る時のようで、グッときました。 ――eスポーツ大会出場チーム募集に応募してきた郡司翔太(奥平)に田中達郎(鈴鹿)が会いに行く場面が素晴らしいです。自転車でピュッと走ってきた達郎が、翔太の写真をバシャバシャ撮ったかと思えば、さっさと帰ってしまう。 古厩:あの場面は、鈴鹿さんに「異常に速すぎるくらいに」とお願いして自転車を漕いでもらいました(笑)。達郎のクセ強キャラが炸裂する瞬間で、本人は楽しんで演じていました。 ――画面下手で波が揺れ、画面奥へ走る鈴鹿さんの後ろ姿がいいですね。映画冒頭では翔太も自転車を漕ぐ場面があります。 古厩:自転車は映画的な乗り物ですから、自転車を撮っておけば間違いありません。

自主練で呟いた「心の叫び」がセリフに

古厩智之監督――奥平さんとの掛け合いはどうでしたか? 古厩:キャラクターや演技の方向性は全然違いますが、俳優同士の年齢は近いですし、キャッチボールをしていく中でお互いにいい影響があったと思います。 ――若手俳優に対していつもどのように演技の空間を作るんですか? 古厩:僕のようなおじさんが作ってもしょうがないので、おおまかな動きだけ段取りとして決めてあげて、あとはお任せします(笑)。おおまかな指示のほうが、彼らが自由に演じる幅が増えるからです。それを見て、「あ、いいな」と思った瞬間を拾っていきます。あまりキツくきゅっと縛っても監督が得をすることはありません。 ――オンライン上で達郎から「ロケットリーグ」の操作を指南された翔太が、心からゲームを楽しんで、「取れるだけで嬉しい」ともらす一言。初心者の彼がコタツに入ってゲーム画面に集中するあの場面は、奥平さんが自由に演じているなと感じましたが。 古厩:あのセリフはですね……。『武士道シックスティーン』(2010年)の剣道にしろ、『のぼる小寺さん』(2020年)のボルダリングにしろ、監督としていつも真っ先に挑戦してみるんです。でもだいたい僕が一番最初に脱落する(笑)。今回はeスポーツですが、ロケットリーグは操作が難しい。家で何度も自主練して、やっとボールを取れたとき、「取れるだけで嬉しい」と呟くと、妻が「そのセリフいいね」と(笑)。 それでメモをしてセリフにしました。なので僕の心の叫び。最初ボールが取れるだけで、ほんとうに嬉しいんですよ。 ――さすが、脚本家でもある唯野未歩子(達郎の母役)さんとの共同作業があったわけですね! そんな背景のセリフを奥平さんが発すると、それこそ、あんなにもナチュラルになるんですね。しかもあの場面は、ショットのサイズがやや引き気味で画としても一番好きな場面でした。 古厩:はい、ああいう瞬間はカメラを引きたくなるものですね。
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「社会としての家庭も描きたい」
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