――一方で漫才協会の会長として今回の映画を監督され、現役の漫才師としてもお笑い芸人としても多方面で活躍されていると思いますが、人生で仕事の他に成し遂げたい夢みたいなものはありますか?
塙:本当にそういうものはないですね(笑)。個人としては旅行に行ったり、メジャーリーグの球団全部、観に行きたいとかはありますよ。そういう感じですかね。
――仕事中心みたいな感じですか?
塙:“仕事人間”みたいな人って、僕の持論なんですが、ラクをしたいから早く仕事している人っていると思うんですよね。要するに仕事が溜まることが嫌だから、仕事を受けて受けて、結局忙しくなっちゃって。でも本当は早くラクになりたくてやっているんですよ、みんな。
毎日ちょっとずつ仕事をするのが嫌だから、1日に固めて仕事しちゃったほうが次の日に休みが取れるじゃないですか。僕もそういうふうにやっていたら、1年中固まっちゃっているという感じなんです。
早くラクになりたいから漫才もハードを作って、漫才協会も1回1回営業で仕事を取ってこなくてもいいようにある程度システム化して。そうやってシステム化するためにいろいろと動いている今が一番大変なのですが、目標としてはラクになりたいんです。永遠の目標です。でもラクになんないですよ、全然(笑)。
――漫才協会には、そういう機能も持たせたいわけなんですね。
塙:そうですね。後に続く人たちみんなに道を作ってあげたい想いはあるんです。変なところで苦労しないようにといいますか。『M-1グランプリ』も、作った方は相当大変な苦労をされたと思うんですよ。僕らはそこに乗っかって仕事いただいたわけですから。
だからそういうシステムを作れたら一番いいなと思っているんです。漫才協会のテレビ、漫才協会の営業、漫才協会に入っていたらある程度飯が食えるようになるっていうものを確立したいなという願いはあるので、毎日ずっとどうしたらいいか考えています。
人間関係の「嫌なこと」を綺麗にしようとするときつい
――そういう意味では今回の映画は漫才協会の広報的な意味合いとして、一般の人に漫才協会や東洋館のお笑いの魅力が広まると同時に、漫才師を目指す若手に漫才師のリアルを見せるという意味もありますね。
塙:そうですね。なかなかインパクトのある人たちですから(笑)。芸人人生、何が起きるかわかりません。相方が突然亡くなることだってあるし、事故に遭うことだってあるし、それはどうなるかわからないですよね。だけど長い目で見た時に、関係性がどういうふうになっていくのかというところを観てもらいたいですね。
おぼん・こぼん師匠なんか特にそうですけど(笑)。ただ、おぼん・こぼん師匠は辞めなかったことが一番すごいですよね。一度も解散していないんですよ。それはおぼん・こぼん師匠がすごく誇れるところで、どんなに仲が悪くなっても解散しなかった。今の若手は相方の一言で不満になって爆発しちゃって、もうネタ作りたくないとか、あいつのためにネタ書きたくないとかって、けっこうあるんですよ。僕もよく相談されるんですけど。
衝突することは当然あるわけで、漫才師はそれを避けられないわけですよ。だから、相方がいかに大事なのかということも本当はわかってもらいたいです。漫才はふたりでしかできない。それが絶対に分かる時が来るからって、僕はずっと思っていますけどね。
――おぼん・こぼん師匠は以前「水曜日のダウンタウン」でかなり追い込まれていましたが、この映画で描かれているその後の姿は確かに感動的でした。
塙:そうなんですよ。人間関係もそうですが、もう旦那が嫌だとかよくあるじゃないですか。上司が嫌だとか。誰もが嫌だって人がいるじゃないですか。でも、そこを綺麗にしたくて、いろいろ動いているほうがたぶんきついんですよ。
それって人間の基本ベースなんですよね。だからあいつが嫌だとか思う時って、実は自分がすごい健康な状態なんだって思ったほうがいいんです。漫才協会の会長になったらなおさら思います、めちゃくちゃみんなわがままなんですよ(笑)。