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朝ドラ『虎に翼』への批判に反論。「政治的」「ビールを酔うほど飲む女性はいなかった」がトンチンカンな理由

瓶ビールをグラスに注ぐ動作がしっくりくる

「淡谷のり子の世界~別れのブルース~」(コロムビア・マーケティング)

「淡谷のり子の世界~別れのブルース~」(コロムビア・マーケティング)

 1937年、「別れのブルース」をリリースした淡谷のり子にはこんな逸話まである。現在の東京音楽大学で声楽を学んだ淡谷は、ソプラノである自分が低い音域の声をだすために、レコーディング前夜、夜を徹してしこたま酒を飲み、声をガラガラにしたという。  日中戦争が勃発した年の流行歌手は、こうもファンキーだったのだ。「昭和10年代の女性はビールを飲んでたんですか?」なんてうっかり聞いたものなら、「あーた、寝ぼけてんの?」と淡谷の冷たい視線に射抜かれるだろう。  ファンキーというと、伊藤沙莉だって負けちゃいない。この人は、ほんとビールが似合う人なのだから。第16回のにこやかな飲みっぷりだけでなく、2018年公開の『パンとバスと二度目のハツコイ』では、深川麻衣扮する主人公とのランチ場面でビールをぐびぐび。もちろん手酌。瓶ビールをグラスに注ぐ動作がしっくりくるのなんの。

寅子の痛飲が意味するもの

『虎に翼』には、内容が政治的過ぎるという批判の声もある。エンタメはエンタメ。政治と切り離すべきだという意見だが、そもそもそれは無理な相談だ。  カメラのフレームが切り取るのは、恣意的な現実世界。恣意的である以上、作品全体には、制作サイドの思想が反映される。思想はそれぞれの制作者によってもちろん異なる。相対的な意味で、作品の数だけそこには自然と政治が宿る。  その上で第16回の酒宴を考える。痛快なビールの喉越しがほんとうのところ、伝えようとしているのは、太平洋戦争が始まる昭和10年代の激動前夜のひと時である。それを単なるフィクションだと断定するのはとんでもない誤読なのだ。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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