
『男女7人夏物語』DVD-BOX(エスピーオー)
X上でのパトロールを続ける。今度は文学作品から。小説家の中沢けいがレファレンスとしたのは、徳田秋声と谷崎潤一郎。どの識者も口々にいう。あんな愚問が浮かぶくらいだから、映画も文学もろくに知らないんだろうと……。
実際、その記事の筆者が根拠としたのが、『男女7人夏物語』(1986年)。寅子にならって素直に反応すれば、まさに「はて?」だ。そもそも昭和10年代の話題なのだから、いきなり昭和後期である1980年代のテレビドラマの話をされても理解に苦しむ。
尾崎紅葉の門下で自然主義を代表する徳田秋声が1938年に発表した『仮装人物』の小夜子は、ウィスキーやらビールやらなんでも飲んで、酔っ払ってばかりいる。それから、昭和10年代の関西に暮らす上流家庭の4人姉妹を微細に描く谷崎潤一郎の『細雪』連載が始まったのは、時代が下って1943年。

『細雪(上)』(新潮文庫)
戦後、ベストセラーになる同作は、戦中、「中央公論」連載途中で陸軍省から掲載を禁止されたが、次女の幸子がビールを飲む人物として設定されている。映画でも文学でも昭和10年代までに酒を飲む女性がちゃんと表象されていたことになる。
実はその記事の意見にはもうひとつある。今度は寅子が手酌で飲んでいたことが問題ある描写だというのだ。当時の女性は男性から注がれることはあっても自分のグラスに自分では絶対に注がないと。
寅子の父・猪爪直言(岡部たかし)や母・猪爪はる(石田ゆり子)がそこは絶対にとめるべきだったというのだが、猪爪家のような裕福な家庭の女性がかなり自由に飲酒を楽しんでいたことは、『細雪』が示す通り。
あるいは、昭和10年代生まれのぼくの祖母は、下戸ながら、飲酒が好きな人は女性でも誰でも、人前で好きなように楽しんでいたことを証言してくれた。