主人公の青木カナコは37歳。カナコの夫の青木リョウは35歳。子どもを持つなら急いだほうがいい、と背中を押される年齢です。
とはいえ、多忙な出版業界に勤務しているカナコにとって、子どもは未知な存在。仕事に邁進(まいしん)し、結婚後も恋人同士のような付き合いをしている日常に、「子ども」の入る余地がないのです。
カナコの大学の同期、西野マリカも妊活中。ほぼセックスレスなカナコ夫婦は、人工授精に取り組んでいました。セックスがないから愛情がないというのではなく、カナコの夫は子どもを欲しがり、カナコも「子どもを生むなら夫との子ども」という確固たる意思があるのでしょう。
子どもが欲しい、というのは当人にとっては純粋な欲求です。目的は人それぞれだとしても、「欲しい」というのは心の奥底で芽生える本能のようなもの。
だからこそ、愛する夫がいて、子どもを持つのに何の障害もないカナコは、子どもを欲しいかわからない自分が不思議で、苦しいのです。社会的な責任逃れをしているような、大人の女性としてどうなのかと、悩んでしまうのかもしれません。
SNSやLINEで流れてくる、友人や知人の赤ちゃんの写真、妊娠の報告。カナコはイイネが押せず、「おめでとう」も言えません。
ドライに割り切って祝福すればいいのに、自分が社会の圏外にいるようでつらいと、カナコは胸を痛めます。「普通」や「まとも」からあぶれているようで、引け目を感じてしまうのです。
カナコの親友、森本ハルミも仕事と恋愛で人生を充実させています。年上でセレブな彼がいますが、結婚にも子どもにも興味はなさそうです。彼が好きで、彼と一緒にいる自分が好きなハルミは、カナコに言います。
「そこにやっぱ子どもってピースはハマらなくてさ~」
子ども、結婚。悩んだ末に見つけたハルミだけの幸せが、そこにありました。
カナコの10年来の酒飲み友達、河野サキはワーキングマザー。夫と協力しながら育児と仕事にフル稼働です。そんなサキがカナコに送ったひとことが、「今の生活が変わっちゃう怖さよりも、自分とケンちゃんの子どもに会えないで一生が終わる怖さのほうが勝っちゃったから」。