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故・中尾彬の“21歳の頃”があまりにもかわいい。近年の“憎まれ役“も愛された理由

若者世代がギャップ萌え

『終活夫婦』(講談社)

『終活夫婦』(講談社)

 中尾彬がかわいいだって!? 晩年の中尾の姿を想像すれば、いぶかしく思う人もいるかもしれない。でも中尾彬に対するかわいいは、若い時分に限定されるわけではない。  令和に改元されて以来、民放各局はさかんに昭和と令和の世代間ギャップを比較する番組を放送しているが、老年期の中尾は、そうしたバラエティ番組出演がおなじみだった。年配者と若者との対立図式が面白おかしく描かれ、ひな壇上の中尾が大抵、頑固な、ザ昭和世代のキャラクター代表を引き受けていた印象がある。  若者世代のタレントに容赦なく噛みつき、あえて嫌味に振る舞う。ヒートアップしたあとには、ちょっと照れたように微笑んでもみせる。これが中尾の粋なところ。それを見た若者世代は昭和世代の頑固なステレオタイプを演じるかのような中尾をどこかで、愛おしさも込めてかわいいと感じたのではないだろうか。  愛おしいの語源は「厭う(いとう)」(嫌う)にあり、かわいいは「可哀想」の変化系と言われる。つまり、嫌味っぽく見える晩年の佇まいは、愛おしさの反語的なスタイルであり、それが単なる頑固ジジイの哀感にならずにかわいいへと転じる。 『月曜日のユカ』をリアルタイムで知る世代には当然かわいい中尾の姿が原点にあるが、それを知らない令和のZ世代なら、嫌味といたわりが響き合う中尾の複合的なかわいさに思わずギャップ萌えだったはず。

昭和スターの数少ないひとり

 主演映画『内海の輪』(1971年、『月曜日のユカ』の脚本を倉本聰と共同で執筆した斎藤耕一が監督)を見ていると、その初登場場面がやっぱりかわいい。共演する岩下志麻と待ち合わせた喫茶店に煙草を吸いながら入ってきて、隣の席に座る中尾が上を向くと、どことなく田中圭に似ているような。  岩下志麻との再共演作『極道の妻たち 最後の戦い』(1990年)では、冒頭、跡目を継いで四代目を襲名する田所亮次を演じている。同作は岩下志麻の名を映画史に刻む「極道の妻たち」シリーズ第4作にして岩下のシリーズ復帰作。さすがの東映ヤクザ映画の凄みの渦の中では、かわいいなんて形容はどこにも見当たらない。  でもそのかわり、同作からシリーズ出演者に仲間入りした中尾が、存命する昭和スター俳優の数少ないひとりだったことに改めて気づく。今でも存命なのは、岩下扮する瀬上芙有の夫で瀬上組組長役で出演する小林稔侍。それから『男の紋章』(1963年)や『刺青一代』(1965年)などの日活任侠映画の花形だった高橋英樹。  高倉健、菅原文太、渡哲也、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、松方弘樹など、任侠映画イコール昭和スターだった時代のレジェンドたちが去った今、中尾、小林、高橋の3人が日本映画界を駆け抜けたスターの生き残りだった。
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近年にはラブコメ漫画作品にも
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