
『コードブルー』(フジテレビ)公式サイトより
本作を読み解く鍵は、数字ではないのは明白だと思う。もっと画面上の演技を見てほしい。繰り返しになるが、山下の演技の温度を各場面ごとに敏感に感知できるか、できないか。「日の出前と日の入り後のわずかな間」にしか観測されないブルーモーメントのように、山下智久を感じられるか、感じられないのか。
つまり、山下の演技自体が、本作のテーマそのものだというと。これまで彼が演じてきた過去作の演技の集大成でありながら、ザ・山Pと言えるような要素は極力削ぐことで、ギュッとスマートに集約されている。
人命救助という点では、山下を代表する「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」シリーズ(フジテレビ)とテイストは似ているのに、同シリーズや『正直不動産』など、冒頭で必ず上半身をさらけ出していた山P的なものはどこにも見当たらない。第4話で「限界だ」と言って、白衣を脱いで、ネクタイを緩めることはあっても素肌までは見せない。
筋骨隆々な山下が脱ぐのは、もはやサービスショットを超えた署名のようなものなのだが、スマートな演技一本勝負で、新たに署名を書き換えたかのような本作の山下智久が、どこまでも清々しく写る。
こうして新たな署名を得た山下は、ぼくらが親しみを込めて呼ぶ山Pと同一人物でありながら、でも今までとはまるっきり異次元の存在になった気がする。
史上最大規模の台風が関東圏で猛威をふるう最終話を見るとどうだろう? 意外過ぎるほどあっさりしている。人命救助を題材とする民放テレビドラマなら、劇的にエモーショナルでもっと大味な大団円を迎えてもおかしくない。
にも関わらず、本作では災害現場で窮地に陥る綾を全力で救出するクライマックスでさえも大袈裟な演出が明らかに控えめになっている。現場で指揮をとる晴原は基本的にパソコン画面に向かって解析を行い、常に冷静。闇雲に現場を走り回る姿はどこにも見られない。
晴原の透徹した眼差しは、山下にとって海外ドラマ初主演となった『神の雫/Drops of God』(Hulu、2023年)の遠峰一青がどんな銘柄のワインも嗅ぎ分ける瞬間の表情と酷似する。近作を通じて山下智久は、今、研ぎ澄まされた感覚の境地へ到達したように思う。
そんな境地を目指してまだがむしゃらだった時代。バスを追いかけて猛ダッシュしていた山下の代表作、『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』(フジテレビ、2009年)の頃が懐かしい。
『ブルーモーメント』ではほとんどダッシュしないけど、明日に向かって爽やかに駆け出していく晴原がラストのワンショットになったのは、やっぱりぼくらが知ってる山Pがちょっと顔を覗かせてくれたから?
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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