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パリコレを目指し挫折も…56歳俳優が“圧倒的な存在感”を発揮できるまでになったワケ

王騎役でなければならない理由

 さて、『キングダム 大将軍の帰還』で、大沢演じる王騎が討たれることは公開前からわかっていた。王騎も言うように、ひとりの偉大な将軍が時代を代表すれば、後には必ずそれに取って代わる新たな将軍が現れる。  戦乱の世の常として、大将軍を目指す信に身をもって教える。因縁の敵総大将・龐煖(吉川晃司)との手に汗握る一騎打ち。ほとんど互角の勝負に思われたが、趙の大将軍である李牧(小栗旬)の策謀に不意を突かれる。李牧こそ、まさに新たな時代の将軍だ。  王騎の名馬が敵めがけて戦場を疾走するクライマックス。手綱を握るのは信。信の後ろに王騎。敗走に違いはないが、王騎は凛として、敗残の美学をにじませる。  鼻から勢いよく抜ける「ンフッ」はもう聞こえない。それでも馬上の王騎は、「フッフッフッ」とかすれながらも上体は崩さない。映画館の音響空間でないとうっかり聞き逃してしまうかもしれない。  あれだけの猛々しい役から繊細な音をふるわせることができるのは、大沢たかおしかいない。大沢たかおが王騎役でなければならない理由は、この音の変化にこそあると思うのだ。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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