――今も自己肯定感は低いままですか?それとも何か肯定感が上がるきっかけがあったのですか?
おおたわ:そのときはもがいていたのでわからなかったけれど、肯定感の低さを埋めるための努力をいっぱい重ねてきた人生だった気がします。自己肯定感が低ければ低いほど、たくさん積み重ねないと埋まらない。「なんでそんなに自分を追い込むの」と友達に言われたことがあって。
もともとは1日ゴロゴロしていたいくらいの怠け者なんです。それでも、母のプレッシャーもあってなんだかんだ勉強してきたことで、自分に少し自信がついたり、試験に受かったり、医師免許を取って仕事をするとか、ひとつひとつ
「自分は大丈夫なんだ」と証明するためにやってきたような気がしています。

なぜ本を出したりテレビに出演するのかというのも、人から認められたい想いが根底にあるのだと思います。コネクションもない、文章のプロでもない私にとっては突拍子もないチャレンジだったわけだけど、メディアに出たいという自分を駆り立てる強い想いだけがあって、やり続けてきて今に至るという感じ。
これを言うと驚かれますが、医師免許を取ってからも
「頭が悪い」という劣等感は消えていません。50歳を過ぎてから総合内科専門医の試験に挑戦したのも、そんな劣等感を少しでも払拭したかったからかもしれません。
――最近、「自己肯定感を上げる方法」的な本が多く出版されています。一方で、肯定感は子供のときに育まれるもので、大人になってから上げるのは難しいという意見もありますよね。
おおたわ:私は、
肯定感は上げられると思います。人間にはレジリエンス(回復力)があると思うんです。
精神科の先生が言っていたのですが、うつ病になってから回復した人は、以前より人格がワンランクアップすることが多いと。これもレジリエンスの例ですよね。
私も、研修医の頃に、うつ状態で半年ぐらい寝たきりになった経験があります。当時、研修医の働く環境は劣悪で、休みも寝る時間もろくにありませんでした。必死に研修期間を乗り切った結果、体も精神も疲れきってしまって、決まっていた就職を辞退せざるを得なくなりました。
「死のうかな」くらいしか考えられなかった状態から半年ぐらい経って、また社会に戻って生きていかなくてはと思い始めたときに、このまま医師の世界に戻ったら、また自分を追い込んで破綻するのではないかという恐怖がありました。医師としての自分とは別に、
もうひとつ何か自分を吐露できる場所が必要だと思って、自分の気持ちを文章に書き始めたんです。

自分がダメになってしまうという焦りが異様なパワーを生んだんでしょうね。書いた文章を見てもらえないかと、いろんな雑誌に載っている編集部の電話番号に電話をかけまくりました。担当の方が会ってくださって、面白いねと、「週刊朝日」にショートコラムが掲載されることになったんですよ。それが、本を書いたりメディアに出るようになったすべての始まりです。
布団をかぶって寝ていることしかできない最悪な半年間だったけれど、あれがあったから今があると思っています。うつ状態を経験してからのほうが、できることが増えたし、アプローチ方法が変わったし、自分に対する感覚が変わりましたね。