
志穂にはじめて彼ができたのは、大学2年の夏でした。初体験ももちろん彼。とはいえ、いざ挿入となると待っていたのは感激よりも激痛。ここまでは体験者も多いと思いますが、個人差が大きいとはいえ、じょじょに慣れて、気持ちいいという感覚が芽生えてくることが少なくないようです。
志穂の場合は「体がまっぷたつに裂ける」ほどの激痛ばかり。そんな折に、志穂は彼が友達に愚痴っているのを聞いてしまいます。「彼女が全然やらせてくれない。処女は面倒」という心無いひとことを。
女性としては、こういった男性同士の会話は理解できないですよね。男性にとっては軽口かもしれませんが、女性は立ちなおれないほど傷つくのです。特にセックスのコンプレックスは、“女性として何か欠陥があるのではないか”、と思い詰めるほど深刻です。
ほどなく彼の浮気が発覚し、別れることに。激痛と恐怖に苛まれた志穂のセックスに、トラウマまで加わった瞬間でした。
やがて志穂にも新しい出会いがあり、結婚します。信頼し合っている夫とのセックスでも、痛みからは解放されません。自然分娩で出産してからも、志穂のセックスは痛みに支配されています。
誰とも付き合わず、結婚もしないで生きていくなら、セックスなしでも問題はないのです。事実、そういう人はたくさんいますし、ご自身が楽ならそれでいいのです。
でも志穂は違いました。夫も子供も大切、夫とは別れたくない。たかがセックス、と言い切ってしまえるほど、セックスを軽視できないのです。
「痛いからできない、でもあなたを失いたくないから我慢する」という女性の心情もつらいですし、「気持ちよくさせられない、我慢させている」という男性の心情も耐え難いに違いありません。
お互いがお互いを慮(おもんばか)っているからこそ、志穂と夫の健也の距離も、じょじょに離れていってしまいました。