
『 役者人生・本日も波瀾万丈』(北村和夫・著/近代文藝社・刊)
ただ、北村有起哉はその場面では扉を開けて、入店するわけではない。戸から戸への動線移動では類似しない。代わりに、その移動自体はまた別の場面で演じられる。
第9週第42回で聖人は、再度靴店をたずねて、糸島の野菜を入れた袋を置いていく。第37回では扉の先までは入らなかった聖人が、この場面ではしっかり入店して、戸から店内へ動線移動を完了させる。
続く第43回、聖人が理容店の床掃除をしていると、外から店内を覗く人がいる。今度はガラス枠に緒形直人がすっぽりおさまる。「なべさん」と言って、すかさず聖人が扉を開ける。孝雄は入らず、聖人が差し入れた糸島の野菜が入った袋を「いらんゆうたやろ」とぶっきらぼうに突き返す。
戸を媒介にして演じられるやり取りは、上述した『陽暉楼』の場面を踏まえて見ると、時代を超えて類似し、共鳴する俳優父子の連動として捉えることができる。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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