
北村和夫が演じる島田大心は、主人公・古波蔵恵里(国仲涼子)が上京した引っ越し先の隣人。恵里があいさつ回りで島田の部屋のドアをノックする。島田は居留守を使っているのか。第30回、恵里が出直そうとしたところへ、ドアを開けた島田が隙間から顔をのぞかせる。
恵里はほとんど一人相撲で語りかける。それに対して島田は「なに」とぶっきらぼうに連呼するだけ。それ以外の場面でも「なに」しか言わない。「なになに」じいさんなのである。
島田の偏屈な性格設定とあいまって、北村和夫のその顔の仏頂面が北村有起哉と激似なのだ。さらに少しだけ開けたドアの隙間からのぞく顔が絶妙にフレーミングされる絵は、北村和夫もまた顔が画面の基礎となる俳優ということを端的に示しているのだろう。
そりゃ父と息子なのだから、顔が似ているくらいは当たり前かもしれない。でも似ているのは、顔ばかりではない。ディープなバリトンボイスの息づかいと響きもほんとうによく似ている。
島田の台詞に傾聴してみる。恵里が「お一人なんですか?」と聞くと「えぇっ? あぁ、うん」とほぼ母音だけで答えている。バリトンボイスによる「え」と「あ」と「う」はくぐもっていながら、不思議とディープでクリアな響きになっている。
このくぐもったバリトン母音の響きは、『おむすび』の北村有起哉もはっきり共通している。特に第9週第41回、夕食場面で結の姉・米田歩(仲里依紗)に「歩にできんのか?」と聖人が聞くとき、「かぁ」と語尾が余韻豊かにくぐもったバリトン母音になっている。