「飲み会も仕事のうち」。こんないいわけは昭和で廃(すた)れたはず。
アヤカは夫から浮気の気配を察知。5歳と3歳という、子育てにもっとも精神と体力を削られる時期に、協力は最小限、しかも自分を最優先する夫に、アヤカの怒りが着火しました。
収入がアヤカのほうが上というのも、夫に見切りをつけた要因だったのです。
子供たちのためにも、夫はいらない。
覚悟を決めた女性、とりわけ母は強いです。アヤカ自身が手がけたかつての浮気漫画が役立った、というのは皮肉です。とはいえ、背に腹は代えられないと探偵事務所に依頼するなど動き出したアヤカの行動力は、全女性の励みになるに違いありません。
「心の底から怒るのも、悲しむのも、すべてが終わってから」とアヤカは自分に言い聞かせます。努めて冷静さを保つアヤカは、毅然(きぜん)として正しいメンタルの持ち主です。
冷静さを欠いてしまっては、離婚を優位に進められない、耐えるのは子供たちのため。むしろ耐えるという感覚すら放棄して、アヤカは虎視眈々と浮気の証拠を集め、探偵事務所とタッグを組んで進んでいきます。
このあたりの流れは、強さに感心こそすれ、健気(けなげ)すぎてアヤカの代わりにこっちが泣きたくなってしまうほど。守るべきもの、子供たちがいると、女性はこうもたくましくなれるのです。
子供がいる場合、離婚に付随するのが養育費問題です。
世間の平均額が約3万円と聞いて、アヤカは驚愕してしまいます。安すぎる、というのが理由ですが、月々3万円が支払えない夫(元夫)がいるのもめずらしくはないのだとか。
離婚調停が1年と続くうち、数千円単位で揉めるのに疲れて折れる例もあるそうです。しかし子供のためを思うからこそ、アヤカはいっさい妥協しません。
アヤカ自身の年収がそこそこあるとはいえ、家のローンや生活費を考慮すれば、少しでも多くほしいのが親心です。単純に、子供はひとりでは作れないのですから、養育費をケチるというのは個人的にも酷い話だと思うのです。
家庭相談員や離婚経験者に相談しつつ、全方位で完璧な離婚を固めていくアヤカ。ここまで理論的に、いい意味で夫を追いつめていくやりかたは、尊敬以外の言葉が生まれません。
本書が素晴らしいのが、この一冊でパーフェクトな離婚ができてしまうこと。離婚前に収集する情報とその注意点、優秀な探偵の見つけ方、離婚にかかる費用から、離婚後の生活費まで。
女性の皆様、「どんなに好きで結婚した相手でも自分の貯金と年収は決して教えるべきではない!!」。本書の格言を胸に、離婚したとしても揺るがない、アヤカのような人生を歩みましょう。
<文/森美樹>
森美樹
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『
主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『
母親病』(新潮社)、『
神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。
X:@morimikixxx