『ウィキッド』本編にある社会問題と戦争のメタファー

『ウィキッド ふたりの魔女』
『ウィキッド ふたりの魔女』は社会問題のメタファーを多く含んでいる。主人公の1人「エルファバ」が緑の肌を持つために侮蔑的な目で見られる様は人種差別やルッキズムの問題そのものであるし、とある陰謀により不当な社会的制裁がまかり通る様からはファシズムの恐ろしさが伝わってくる。
人間や世界を「善」「悪」と単純で二元論で捉えることへの危険性も発信している。歴史上での「魔女」は、現代でも「魔女狩り」という言葉が残っているように、無実ながら不当に断罪された存在でもあり、劇中で後に「西の悪い魔女」と呼ばれるエルファバも、その悲劇へ足を踏み入れていた(かもしれない)ことが示されている。歴史学の教授を務めるヤギ「ディラモンド教授」も明らかに「スケープゴート」としての不当な処分を受けてたりもする。
そして、1995年に刊行された『ウィキッド』の原作小説では湾岸戦争を、2004年に初演となったミュージカルはイラク戦争を反映しているという話もあり、今回の映画からまさにイスラエルによるパレスチナのガザ地区への侵攻、それに至る国際的な状況を連想した人もいる。「パワーバランスが明らかに一方的」な様と迫害が描かれ、それがさらなる悲劇へとつながることを想像させるからだ。
そのように『ウィキッド』は差別やファシズムの問題、一方的な善か悪への決めつけへの危険性を示し、さらに原作小説とミュージカルと映画、それぞれの時代の戦争を映してもいる。その作品の精神からしても、シオニズム企業として世界的に批判され続けているスターバックスの姿勢とは反しており、そのコラボという「選択」が批判されていることは、やはり多くの人が知るべきことだと思える。
なお、主人公の1人「グリンダ」を演じたアリアナ・グランデは2024年に、停戦を宣言するようイスラエルを説得する請願書に署名している。俳優はもちろん製作者が、現実の戦争や悲劇を作品に反映しているのは間違いないし、だからこそスターバックスとのコラボは残念という声もまた正当なものだろう。
「『ウィキッド ふたりの魔女』はこちらとコラボをするべきだったのでは」という声が寄せられている映画も現在公開されている。それは、アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』だ。
同作では、パレスチナ人居住地区に住む青年の元に、イスラエル人ジャーナリストが訪れ、そこでのイスラエル政府の非人道的な行為が、2023年10月までの4年間にわたって記録されている。ただそこに住むこともままならず、あらゆる物資が取り上げられ絶望的な状況へ陥る中でも、2人がささやかな友情を育んでいることもわかる。
『ウィキッド ふたりの魔女』での、性格や境遇がまったく異なる女性2人が、差別的な価値観がまかり通り、迫害をされてもおかしくない環境の中でも連帯をしていく様は、『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』の青年2人に重なるところがあった。あまりにひどい世界で、対立をしてもおかしくない立場の人間同士が、お互いを思い連帯することに、か細くはあるが確かな希望も得られるだろう。
改めて、今回のスターバックスとのコラボの問題からシオニズムにより批判されている企業があること、または『ウィキッド ふたりの魔女』『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』や本編の内容から、世界にある戦争、分断や差別の問題に触れるきっかけになるのであれば、やはりそれは意義のあることだ。ぜひ、考えてみてほしい。
<文/ヒナタカ>
ヒナタカ
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:
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