しかしながら、ダウンタウンの論法には負の側面もありました。トークが独自のお笑いセンスというフィールドに固定されていたために、ミュージシャンの音楽的なバックグラウンドにまで視聴者の興味を向けることができなかったからです。
これはひとえに、ダウンタウンの二人に他者への関心や、自分の知識や理解を超えたものを知ろうとする教養へのあこがれに欠けていたためです。あくまでも当時のテレビを支配していたダウンタウン的な笑いでポイントを重ねていくことこそが、世間一般が音楽と触れる窓口にならざるを得なかった。
つまり、ダウンタウンは音楽を売る状況は作ったけれども、日常的に鑑賞する文化は作れなかった、ということですね。
ともあれ、それはダウンタウンだけの責任ではありません。むしろ、今後トークのジャムセッションをできる芸人やミュージシャンが現れるかどうかの方が、はるかに大きな課題となるでしょう。それは現状の音楽番組を見れば、火を見るより明らかです。
浜田の姿勢が小室哲哉からフォーク的な作風を引き出した

H Jungle With t 「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント(アナログ7インチ)」avex infinity
もうひとつ忘れてはならないのが、浜田雅功の歌手活動です。なかでも小室哲哉による「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーブメント~」と「GOING GOING HOME」は、当時ダンスミュージックを先導していた作者がフォーク的な素地をあらわにした、興味深いコラボです。
H Jungle with tのアーティスト名で流行のビート「ジャングル」を一躍お茶の間に広めましたが、曲自体は、歌詞が伝わるポップソングでした。小室哲哉に批判的だった松山千春も、「WOW WAR TONIGHT」を褒めていました。それぐらい王道を行く曲だったのですね。
続く「GOING GOING HOME」は、いわゆるtkサウンド、そして歌手、浜田雅功の両者において、ベストワークと呼べるのではないでしょうか。「WOW WAR TONIGHT」ほどの強いメッセージはありませんが、音楽の軽やかさや艶がありました。浜田、小室の両者のリラックスしたムードが、曲によくあらわれています。
この肩の力の抜けた感じが音楽っぽい。お笑い芸人が話題作りのために歌うのではないと力みかえるよりも、むしろ真剣さが伝わる。この浜田の姿勢が、作曲家から違った作風を引き出したのではないかと感じます。
これもまた、音楽市場が活気に満ちていた時代の証として記憶されていくことでしょう。