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大ヒット朝ドラ主演の30歳女優への批判に反論。特徴的な声の魅力、ラジオでの発言を読み解く

好き嫌いにたどり着くのが自然なこと

『連続テレビ小説 虎に翼 Part1 (1) (NHKドラマ・ガイド) 』

『連続テレビ小説 虎に翼 Part1 (1) (NHKドラマ・ガイド) 』NHK出版

 乱暴な説明だが、演技は大きく演技らしい演技と演技らしくない演技に区分できる。前者は割と大げさなものからほどよく抑制されたものまで、わかりやすく感情を込めた演技。それは時に憑依型と呼ばれることも多い。  後者は日常の延長にある感情をベースにする演技。注意すべきなのは、あくまで延長であって、日常そのものの感情ではないこと。演技は嘘であることが大前提。日常の感覚に近い演技は時にナチュラルな演技だと誤解される。  でもナチュラルな演技という言い方自体が正確ではない。それは何もしていない素の状態であり、演技ではない。本来フィクショナルであるはずの演技を自然な状態に見せること。これが本当のナチュラルな演技である。  ともあれ、上述のようにあれこれ説明すればするほど、上手い演技が何なのかはよくわからなくなる。演技とはそんな簡単に上手い下手ではっきり語れるものじゃないんだよ。だから結局のところは、極言それって好き嫌いだよね。みたいな発言にたどり着くのがむしろ、自然なことである。

愛すべきハスキーボイス

 もうひとつ看過できなかったのは、伊藤の声についての記述である。特徴的なハスキーボイスに対して、何とまぁ好き嫌いで判定し始めてしまうのだから呆れる。演技の好き嫌い発言は批判しておいて。  ここでも書き手自らの言明は避けて、広く一般の声を紹介するズルさに徹している。さすがに腹が立った。これはもういよいよ烈火のごとく怒らなければ(!)。  これだけは明言しておく。それは、世界でもっともチャーミングで愛すべきハスキーボイスなのだから、そこんとこよろしく、と。恥ずかしげもなくそれすら好き嫌いで簡単に片付けようとする人たちは、まだ脇役が多かった伊藤沙莉が、『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018年)で、あのやわらかく、人懐こいざらざら声と片手に持ったビールグラスの発泡とが調和していた映画的瞬間をたぶん、知らないのだろう。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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