
日本の自宅での兄弟の様子。カイくん中3、コビくん中1、ライアン小2の頃
――夏休みに日本の学校に通うことを、お子さんたちはどう感じていたのでしょうか。
悠子:アメリカの学校にはあまり行きたがりませんでしたが、「日本の先生は教え方がわかりやすい」とすごく楽しそうにしていました。「もっと長く日本にいたい」と言っていましたね。でも、あまり長くいるとアメリカに帰ったときにギャップが大きくなってしまうので、2か月間の滞在が可能であっても、敢えて1か月間に期間を短くしていました。
――日本に引っ越しをして本格的に学校に通うようになってから、どんな影響がありましたか?
悠子:給食当番や掃除を経験させてもらい、家でもやってくれるようになりました。掃除は、「自分の学校を自分で綺麗にする」という責任感が備わりますし、掃除をしてくれる人に対するリスペクトが育まれていると感じます。
アメリカのように、子どもの頃から「片付けは清掃員がするもの」という考えになるのはよくないと思います。「もし自分が掃除する側だったら」と考えたら、それなりに綺麗に使いますよね。でも、アメリカでは「どうせ掃除するのは自分じゃない」という意識だから、学校のトイレは信じられないほど汚いし、レストランでもテーブルの上をぐちゃぐちゃにして帰るのが当たり前なんです。
また、コビは日本で初めて家庭科の授業で裁縫を習って、自分でゼッケンを縫い付けられるようになりました。ライアンは「総合的な学習の時間」で自分たちで稲を育ててお米を収穫してカレーを作って食べたりするらしいので、本人は凄く楽しみにしています。本当に素晴らしい経験をさせてもらっています。

2025年4月。一番右は夫のビルさん
――学校行事の練習などについて、日本の学校は厳しすぎるという声もあります。悠子さんはどう思いますか?
悠子:コビは最初の頃、日本の先生が怒鳴るのを聞いて「映画に出てくるヤクザみたい」と驚いていました(笑)。でも今は、「厳しさがないとダメだと思う」と言っています。怒ることには2タイプあって、自分の機嫌で怒る先生もいるけど、大抵の先生は「おれのことを思っての行動だと思う」といっています。
アメリカの音楽祭では、ポケットに手を突っ込んで歌わないのが当たり前。一生懸命やってる子が馬鹿らしくなってしまうんです。体育でも、ほとんどの子が座り込んでお喋りしているから、頑張っている子は逆に「クールじゃない」と言われてしまう。教師は一応は注意しますが、やる気のない子に厳しく指導する程の熱意はありません。勉強も体育も頑張りたいタイプのカイにとってはつらい環境だったと思います。コビはアメリカのノリにも合わせられるタイプなのですが、だからこそ「日本の環境は、厳しさがあるから成長できる」と感じているのでしょう。
――日本の教師のどんなところに、プロ意識を感じますか?
悠子:先生が、授業の進度に遅れている子どもたちを全員把握していることです。私が教諭をしていた頃もそうでした。担任だけではなく学年全体で課題を共有し、どう指導していくか検討しているので、組織としてサポートする体制があると思います。
子どもたちが日本語の読み書きを教わる中でも、先生たちの凄さを感じました。少しでもわからないことがあったら丁寧に教えてくださいます。
日本に引っ越したばかりの頃は子どもたちも不安を感じていて、担任の先生が週に1、2回必ずお電話をくれました。「最近どうですか」「何かあったらいつでも言ってくださいね」と気遣ってくださって。アメリカでは絶対にあり得なかったことです。
だからこそ、日本の先生がやってくれることを当たり前だと思ってはいけないと思います。保護者対応や子どもへのきめ細かい配慮、放課後の見守りまで、あまりにも先生たちの負担が大きいんじゃないかな。アメリカにいたからこそ、一層そう感じるようになりました。
<取材・文/都田ミツコ>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。