子どもというのは、時として大人よりも敏感です。いくら場を取り繕っても、言葉の裏にある空気を察知します。パパである洋介が大人になりきれずに、家庭よりも友達付き合いを大切にすることも、ママである香澄が洋介や絵美に遠慮しているのも、すべて気づいているのです。
それでも両親が大好きで、仲違いさせたくないから、ゆみは笑顔で我慢を封印しています。特にせつないのが、嫌いなシュークリームを笑って食べるエピソード。家族のためを思い洋介が買ってきたケーキですが、洋介は香澄の好物は把握しているのに、ゆみの本当の好物は理解していなかったのです。
父親に好かれるために、嫌われないために自己主張ができなくなってしまうのでしょう。一読者として、ゆみの健気さに泣かされました。
不倫のような夫婦間のトラブルは、当事者同士の問題かもしれません。とはいえその余波は、確実に子供を蝕んでいきます。
高校時代の気持ちが抜けきれず、なし崩し的に浮気をしてしまう洋介がもっとも許せませんし、気弱で情に流されがちな香澄にもやきもきしてしまいます。が、両親に翻弄される娘・ゆみがあまりにも不憫で、読んでいて何度も胸が締めつけらました。
わずか9歳の娘に離婚を薦められる。母、妻、女として、これはかなりショックではないでしょうか。夫の浮気を事実として受け止めた娘の苦しさ、その苦しさを隠して母である香澄を気遣う心の繊細さ、そして傷。香澄はやっと決心するのです。洋介の浮気を暴いて、離婚をすることを。