「この戦争がなかったら」愛する人のために生きたい!
第54回では、これまで本心を表に出してこなかった千尋が「
わしは生きて帰れたら、もう誰にも遠慮はせん。今度こそのぶさんをつかまえる」と、嵩に遠慮してアプローチできないでいた幼馴染・のぶ(今田美桜)に思いを伝えると宣言。
さらには、「
この戦争がなかったら、わしはもっと法学の道を極めて、腹を空かせた子どもらや、虐げられた女性らを救いたかった」「この戦争がなかったら、いっぺんも優しい言葉を掛けちゃれんかった母さんに親孝行したかった」「この戦争がなかったら、兄貴ともっと何べんも、酒を飲んで語り合いたかった」と自身のやりたかったことを並べる。そして、「
この戦争さえなかったら、愛する国のために死ぬより、わしは愛する人のために生きたい!」と叫んだ。
千尋が自身の望むことをここまで解放したシーンはない。ようやく自分のやりたいことに正面から向き合えたのだ。だからこそ、そんな千尋の思いを踏みつぶす戦争が本当に憎い。加えて、
「自分のため」に「人のため」に生きたいと願うその利他的な性格を、戦争によって「お国のため」に利用されてしまうことが心底悲しく、悔しい。
戦後に制定された日本国憲法では国民主権が掲げられているが、戦前から戦時中の日本は「天皇主権」という体制のもとで、「お国のため」に人生を全うすることが正解とされていた。そんな、当時の“当たり前”に恐ろしさも覚える。
悲しさや憤りばかりではなく、第54回にはほっこりする部分もあった。先述した通り、千尋は誰かのために動いてきた優しい人だ。そのため、本音を打ち明けることは難しい性格である。そんな千尋が嵩の前では、自分の本音を吐き出しており、
千尋がどれだけ嵩を信頼しているのかがうかがえて頬が緩んだ。
とはいえ、2人の絆の深さを感じれば感じるほど、これから“悲劇”が起こった時の精神的ダメージは計り知れない。ただ、それが戦争である。嵩や千尋の“立派で、勇敢で、漢らしい”姿を見て、戦争がいかに悲しみしか生まない行いなのかを直視したい。
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<文/望月悠木>