ではなぜ、津田が描くギャップに魅了されたのだろうか。津田は声優として長く活躍しており、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』ではカードを破いて捨ててしまう偉そうな若社長・海馬瀬人、『TIGER & BUNNY』では“オネエ口調”が特徴的なファイヤーエンブレム/ネイサン・シーモアを演じるなど、幅広い個性を持つキャラクターの声を演じてきた。
声での表現力の高さにより、キャラがどのような性格をしているのかをより強く、より鮮明に視聴者に伝えることができる。だからこそ、一歩間違えれば「無能」「偉そう」と思われそうな
東海林の個性を長所として届けられたのだろう。

とはいえ、声で魅せようとしすぎると演技がくどくなり、他のキャラから浮いてしまうリスクもあるが、そうした違和感を覚えることもない。
その理由として、朝ドラという形式が大きいのではないか。重要なシーンやエピソードではじっくりと登場人物の掛け合いや心情を見せるが、朝ドラは15分と短く、それでいてテンポが非常に早い。場面が変わって「○年後」という字幕が急に表示されて「一気に進んだな!」とツッコんだ回数は数え切れない。
このテンポ感が演技のくどさを緩和し、むしろ“インパクトの強いキャラ”として魅力を高めているように思う。もちろん、その絶妙な塩梅で表現している津田のスキルがあってこそだが、朝ドラとの相性の良さも東海林を歓迎する空気を作れたのではないか。
また、津田が広く支持されている要因を深掘りしたい。
ひとことで言えば、津田からは“ノイズを感じない”ことが大きいのではないか。津田は現在54歳とベテランの域に入っている。50代で今も活躍している二枚目俳優は、若い時にヒット作に出演しており、どうしても今の出演作を見ると過去の影がちらついてしまう。加えて、若い時にはポジティブ・ネガティブに関わらず、何かしらのスキャンダルを経験している傾向が高い。

しかし、津田は声優を主戦場としてきた。声優として演じてきたキャラの年齢は幅広く、人間ではないケースも珍しくない。そのため、過去のアニメで演じたキャラが浮かんでも特に引っ張られることはない。
また、今でこそ声優は人気かつメジャーな職となり、声優関連のスキャンダルもちょくちょく目にするようになったが、それはつい最近の流れだ。これまで“実写”としての露出が少なかったからこそ、過去作やスキャンダルといったノイズが入りにくく、津田が演じるキャラを穿(うが)った見方をせずに観ることができる。54歳ながらも視聴者にはフレッシュに映る津田が、『あんぱん』をはじめ、俳優として今後どのような役を務めるのかも期待したい。
<文/望月悠木>
望月悠木
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):
@mochizukiyuuki