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朝ドラ『あんぱん』、軍隊の暴力描写を「月曜だけ」に決めた理由。演出家が明かす“描く責任”と覚悟

泣いてヒロイズムに陥るよりも、鬼の形相で「生きたい」

 戦争編で記憶に残っているシーンとして、嵩が弟・千尋(中沢元紀)と再会を果たした第54回も印象深い。結果的には兄弟として最後のツーショットとなったこのシーンの撮影の裏側を聞く。 あんぱん「このシーンを撮影する際、最初のカメラテストで中沢君は割と泣いたんですよね。ただ、本番の撮影時には泣かなかった。代わりにそれまで彼が見せてこなかった必死な形相が出て、それを放送に使っています。泣いてヒロイズムに陥るよりも、鬼の形相で生きたいと強く訴えかける芝居の方が断然に良かったと感じています

BGMを多用しないこだわりも

 続けて、「このシーンをどう感じたのか、その判断は視聴者に委ねたかった。だから、悲しい暗いBGMをかけて、海軍で死にゆく人を煽り立て、悲劇的に誘導するのは違う気がしました。そのため、BGMは無しにして“生の形”で描いています」とこだわりを口にする。 「このシーンに限らず、重要なシーンではBGMはかけていません。『逆転しない正義』ということを描こうとしているため、あまり『こっちが正義で、こっちが悪だ』と決めたくない。やはり音楽をかけると、どうしても一方向に誘導しがちなので」 「委ねるところは委ねる」という演出ができているからこそ、登場人物の葛藤や戦争の愚かさをついつい考えたくなるのだろう。キャスト陣の演技はもちろん、制作陣の“計算高さ”も本作の魅力を下支えてしている。 <取材・文/望月悠木>
望月悠木
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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