ちなみに、のぶの父親・結太郎(加瀬亮)、嵩の父親・清(二宮和也)、嵩の伯父・寛(竹野内豊)、のぶの夫・次郎(中島歩)などは病死している。いずれも若くして亡くなっているため、釜次とは違って寿命とは言えない。とはいえ、
戦死とは異なり、親しい人に看取られながら逝っている。

唯一、結太郎は出張先で心臓発作を起こして急死しており、最期に家族と別れの言葉を伝えあうことは叶わなかった。ただ、戦地で亡くなった場合とは違い、どのような死に方だったのかは知ることができる。だからこそ、結太郎の最期を想像でき、別れの気持ちを抱きやすく、のぶたちは結太郎の死と向き合えていた印象を受けた。
なにより、病死であれば、どこか仕方なさがある。「医療技術がもう少し発達していれば」「体調管理に気を配っておけば」と思うこともあるかもしれない。それでも、遺族は罪悪感や後悔を強く抱くことはない。その点、戦死者の遺族は真逆だ。
戦争を引き起こした誰かがいる以上、「戦死は仕方のないこと」と割り切ることは難しい。戦争は急に始まることはない。戦争をしたい誰かの入念な“下準備”があって、初めて始まる。そのことを注意深く観察を続け、戦争の可能性を潰せなかったことへの後悔。
また、親しい人を兵隊にとられた時、
引き止めることが許されないだけではなく、“勇敢な死”を望む言葉を告げなければいけない。言ってしまえば、死ぬことの背中を押さなければいけない。そのため、「あの時、無理にでも引き止めておけば……」「自分が“勇敢な死”を望んだから死んでしまったのでは?」といった後悔。いろいろな後悔や罪悪感が一生付きまとう。