生活状況が変わらずとも、書類上では“他人”になれたことで、心が救われることもある。実際、番組内で加藤は晴れやかな表情を見せていた。すなわち、
部外者がぱっと見では理解できない行動をとらなければいけないほど、加藤が追いつめられていたと察することができる。
愛情はとっくにないから、今すぐにでも「離婚したい」と言いたい。ただ、シングルマザーとしての子育てには不安がある。「それならせめて夫婦として括られることは止めたい」と思っている女性性が多いからこそ、加藤の勇気ある行動に賞賛の声が相次いでいるのだろう。
言い換えば、この心情はワーキングマザーや専業主婦に関係なく“妻”である女性にしか伝わりにくく、ピンとこない男性も多いのではないか。
また、加藤が示した“新しい家族の形”に憧れを持つ理由は他にもあるかもしれない。というのも日本では、離婚後に養育費を払わない男性が少なくない。厚労省が発表した「
令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、「養育費の支払いを受けたことがない」と回答した母子世帯(離婚または未婚)の割合は56.9%にものぼった。一方、「現在も受けている」(28.1%)は3割にも満たない。
養育費を払わない男性は多いが、加藤が選択した離婚形式であれば養育費の未払いリスクは軽減できる。経済的なリスクを回避できる離婚方法を実行した加藤の聡明さに、心を打たれた女性もいるように思う。もちろん、加藤にそのような意図があったかは不明だ。
とはいえ、養育費の未払い逃げを防ぐ方法が確立されていないことは問題であり、未払い逃げが起きないような制度設計を政府は進めるべきではあると思うが。