夕景の砂浜を二人で歩く場面では、美優が「恋人と夫婦って違うのかもね」と言う。ここでも陽介は「え?」と反射的に聞き返してから「うん」と何となく同意する。美優がさらに「初めて会った時も陽介、仕事で遅れてきたの覚えてる?」と嬉しそうに聞くと、意外な質問だったからなのか、陽介は「えへぇっ?」と少し声をふるわせる。
この声色。サンセットビーチの波音と同じくらい綺麗だなぁと惚れ惚れ耳を傾けてしまう。するとインサートカットで後続する回想場面でもっと惚れ惚れするものが……。
遅れてきた陽介が美優の前の席に座る。座った陽介にカメラが寄る。陽介は、ちょっと照れくさそうな表情を浮かべ、美優から視線をずらしながらも、翻って思いきりはにかむ。はい、撮れ高十分。きました、溝端淳平スマイル。誰もが惚れ惚れする表情を回想場面で決めてくれるところ、憎いなぁ。
惚れ惚れする表情といえば、近年の溝端出演作だと白石麻衣とSnow Man岩本照共演ドラマ『恋する警護24時』(テレビ朝日系、2024年)でのオーガニックな社長役がよかった。
表情どころか、溝端淳平その人の全身から品よくだだもれる、惚れ惚れ成分がメロいのなんのって。
17歳の高校生だった溝端は、2006年に第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで華々しいグランプリを受賞した。
21世紀を代表するジュノンボーイになった彼が現在36歳。大人の魅力を醸すようになったのは確かというか、当然なのだけれど、でも単にそうした雰囲気だけの話ではない。
溝端は演劇界で修行を積んだ。『ムサシ』や『ヴェローナの二紳士』など、巨匠・蜷川幸雄の下でシェイクスピア俳優になった。舞台上でのクリアで力強い発声を鍛えたことによって、俳優の基本である聞き取りやすい口跡や声の魅力をここまで洗練させた努力がある。
「え?」や「うん」といった台詞少なめな『私があなたといる理由』でさえ、音数豊かに響かせられるのは、鍛練に裏打ちされた溝端の表現力が安定の円熟期に入った証拠だろう。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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