例えば、アナウンサー仲間4人で集まったランチなどは、もしかしたら、ちょっと異様な光景なのかもしれません。会話のパス回しがとにかく華麗で、不自然な間が一切ない。4人それぞれが話したいことを、キャッチーなワードを入れつつ、絶妙なタイミングで差し込んでくる。
しかも、それを誰も意識していないんです。ベテランになればなるほど、そのスキルが体に染みついていて、“いま誰がどれくらい話しているか”“トピックを変えるタイミング”――そんなものを無意識に全員が把握している。誰か一人が話し続けてしまったり、誰かが消化不良になることはありません。
辞めてから気づいたんですが、アナウンサーって「空気を読む力」の解像度が本当に高いんですよね。いわゆる“わかりやすく話す力”だけでなく、“心地よく聞く力”がものすごく鍛えられている。
こういったスキルは、数字では測れず、キャリアシートには書きにくいこと。アナウンサーであれば、どんな番組に出ていたのか、どんな取材を行ったかというのが、キャリアとして残りやすい。
でも、そういう目に見えるキャリアではなくても、アナウンサーは非常に高いコアなスキルを身につけている人材なんです。
「しゃべれる」「聞ける」「空気が読める」。これらは、実は、ビジネスシーンでも非常に応用が効くスキルなのではないか。アナウンサーの現場を離れた今だからこそ、それを、改めて感じています。

私がテレビ朝日に入社したのは、もう20年ほど前のことです。当時の「女子アナ(あえて、典型的なワードとしてこう書かせてください)」といえば、男性司会者の横で“花を添える存在”というのが一般的なポジションでした。
でも、この20年で空気はガラリと変わりました。今では、女性アナウンサーがキャスターとして自分の意見を発信したり、バラエティでも単なる“アシスタント”という枠を超えて番組の軸を担うようになっています。
それは、「女子アナ」自身が立場を変えていったというよりは、正直、社会が求めるものが変わってきたことが大きいのではないかと思っています。女性総理が誕生した今の時代に象徴されるように、「女性とはこうあるべき」という固定観念が、少しずつ溶けてきたのではないかと思います。
女性アナウンサーも、“花を添える存在”から“番組を成立させる存在”へ。この変化は、テレビ業界だけでなく、社会全体のジェンダー意識の変化と深くつながっている。そんなふうに、客観的に見て感じています。
私は正直、この時代の変化についていくことができなかった。
時代のせいにするつもりではないのですが、もう一歩、枠を超えた存在感を作れなかったという悔しさは残っています。アナウンサーとして、もっとできたことがあったのかもしれないという後悔がないといえば嘘になります。
だけど、今の時代の女性アナウンサーたちをみていると、あそこを超えていくんだなって、すごくまぶしく、たくましく感じています。