『秒速5センチメートル』では、主人公・遠野貴樹(幼少期:上田悠斗/高校生時代:青木柚/大人時代:松村北斗)に恋をする女子高生・澄田花苗を演じる。主人公に思いを寄せるという設定においては彰子と同じだが、花苗は終始純朴。見事なまでの“負けヒロイン”ぶりに、とにかく切なさを覚える。
なにより、アニメ版はモノローグが多く、貴樹に対する思いは花苗の言葉で説明されているが、実写版はモノローグが少ない。ただ、表情や間など、あらゆる表現方法を用いて貴樹への愛情を見事に表現する。だからなのか、舞台となっている種子島の自然の壮大さが、花苗と貴樹の心の距離感を象徴しているようで、美しさと儚さを同時に感じさせられた。
ある意味、花苗は森が得意としている役に思える。しかし、ここまで恋愛感情という単純かつ複雑な感情を描き出し、視聴者の胸を揺さぶってくることには驚きだ。言ってしまえば“純粋な恋する女性”という映像作品にありがちなキャラでも、これだけ人間味を滲み出させてしまうのだから、その演技力は底知れない。
今以上のさらなる飛躍を予感させる森だが、これまでの道のりは順風満帆だったわけではない。
2021年1月、突如公式Instagramが閉鎖され、さらに所属事務所「ARBRE(アーブル)」の公式ホームページからプロフィールが削除された。その後、「SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)」への移籍が発表され、ファンを安堵させたものの、「世間を騒がせた」というイメージがついてしまった。
また、2023年7月から放送された月9ドラマ『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)で間宮祥太朗とダブル主演を務めたが、同作の最終回の平均世帯視聴率は6.3%(関東地区・ビデオリサーチ調べ)と当時の月9ワーストを記録。視聴率が伸び悩んだ要因は一つではないにせよ、世間は主演に責任を求めがちなため、森に対するネガティブな印象が残ってしまった。
とはいえ、2025年には話題作の“皆勤賞”を飾り、そうした向かい風をはねのける活躍を見せている。今後、森がどのような演技を見せてくれるのか楽しみにしたい。
<文/望月悠木>