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『ばけばけ』が描く“親ガチャ”地獄に震える。遊女でも名家でも、出自で人生が狂う「時代の残酷」

 2021年の「ユーキャン新語・流行語大賞」トップ10に選出された言葉“親ガチャ”。「親次第で人生が決まる」という意味のこの言葉は、すっかり私たちの日常に定着した。ただ、親ガチャは現代に始まった現象ではなく、歴史の中にもその影は色濃く見えるように思う。
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画像:「連続テレビ小説 ばけばけ Part1」(NHK出版)

 1800年代後半を舞台にしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)では、明治という時代を背景に、親や出自によって登場人物が振り回され、目を背けたくなるような展開が続く。思わず“親ガチャ”という言葉を連想せずにはいられない。

差別の対象になる仕事にさえ就けない

 11月4日放送の第27話では、中学校の英語教師レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の女中として、遊女のなみ(さとうほなみ)が立候補。手作り弁当を持参するなど、猛アピールを見せ、ヘブンの胃袋も心も鷲掴みする。  ただ、「実は私、百姓の娘で8人きょうだいの長女でして……掃除も洗濯も小さい頃からやらされてきましたけん。もう、染みついちょって!」という言葉を聞くと、なみに好意的な態度を見せていたヘブンは急変。なみの手を握り、「おなみさん、良い……友達……でいましょう」と丁重に断る。その後、ヘブンが士族の娘を女中にしたいと考えていたことが明らかになり、出自のためになみが断られたことがわかった。
 外国人を相手にする遊女は“羅紗緬(ラシャメン)”と呼ばれ、周囲から差別的な視線を向けられる。なみもそのことは百も承知だ。それでも貧困から抜け出すため、必死のアピールを見せた。  そんな差別がついて回る仕事でさえ、出自を理由に断られたとなれば、なみの心情を思うと胸が苦しくなる。なみが遊女になった背景には出自があり、“普通の仕事”ではない、敬遠される仕事でさえも出自に足を引っ張られた。ヘブンに悪気はないからこそ、余計にやるせない気持ちになる。

裕福な“親ガチャ成功勢”も例外ではない

 悲劇を辿るのは恵まれない出自の登場人物に限らない。元松江藩の上級武士で、織物屋を起業した雨清水傳(堤真一)の三男・三之丞(板垣李光人)は、本来なら間違いなく親ガチャ成功勢だ。時代が時代なら、ブランド物を身に着けてセルフィーをInstagramに悪気なくバンバン投稿していたかもしれない。  そんな雨清水家は、傳が病気にかかり、さらに傳の期待という名のプレッシャーに耐えきれず、長男・氏松(安田啓人)が失踪、経営はガクッと傾く。そこで三之丞は“緊急登板”を余儀なくされるが、三男ということもあり傳からは期待されずに育てられたため、ビジネススキルを何一つ持ち合わせてはおらず、当然なすすべもなく織物屋は廃業することとなった
 三之丞の不幸はまだまだ続く。織物屋の廃業から数年後、主人公・トキ(髙石あかり)の父親・司之介(岡部たかし)は、自身が働く牛乳屋にやってきた三之丞を見かける。その際、牛乳屋の社長に対して「社長となるにはふさわしい格を備えております」と、従業員ではなく社長としての就職を希望するという前衛的な“就活”を披露。当然、却下され「帰れ」と激怒される。 「ここまで世間知らずだったとは」と落胆したくなるが、後々トキとの会話の中で、三之丞の母親・タエ(北川景子)の影響で「雨清水家の人間は“人を使う立場”でしか働いてはいけない」という価値観を有していることが判明。  タエは数年前であれば“愛情深く、格式のある母親”だった。しかし、時代が変わり、雨清水家がかつての輝きを失った状況下では、“毒親”とさえ捉えられかねない。
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「実家が太い=良いこと」なのか?
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