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20代にして老人並みの体力、原因不明の不調――。「虚弱」と名乗ることで人生が楽になった

「虚弱」の二字熟語を得たことで、楽になれた

――「虚弱」のバズによって、感じたメリット・デメリットはありますか。 終電:まず、メリットは説明がしやすい。この二字熟語を得たことによって、かなり楽になれたと思います。 ――たとえば「持病や原因不明の不調があって、常にどこか具合が悪くて、体力がないので、日によってコンディションにムラがあります」くらいの情報を説明するのに、「虚弱」で済む。 終電:デメリットは、「虚弱」って定義が曖昧なので、説明しきれない部分もあれば、自分の実態とは違う意味が含まれてしまうことです。たとえば、私はおそらく胃腸は強いほうなのですが、ネット上の感想を見ていると、「虚弱」という人に胃腸が弱い方は多いようです。人によって弱点が違うんだなと。そういった個人差はどうしても生まれますし、中には「この程度で虚弱ではない」みたいな声も出てくる。「虚弱」の定義が曖昧だから、「この人は虚弱か虚弱じゃないか」のジャッジが始まってしまいかねないリスクがあるなと思いました。 絶対に終電を逃さない女さん――事実、絶対に終電を逃さない女さんのXアカウントには「本を出せるなら虚弱ではないのでは」「虚弱と言ってもこの人は大学を出ている」といったジャッジの声も投げかけられています。 終電:「虚弱」に限らず、自分の苦労を語った人に対して、似たような経験のある人が「私のほうが大変だったのに」となる現象はよくあることですよね。また、本書の告知投稿がバズったときに感じたことのひとつに、この著者は自分よりは「虚弱」ではないかもしれないという不安を覚える当事者の方がいる、ということです。 「わかってもらえると思ったのに、わかってもらえなかった」という辛さってあるじゃないですか。「虚弱」のイメージや範囲が固定されてしまうと、そこからはみ出すような「虚弱」の人は、「自分がいないことにされている」と感じてしまう。そういう心理の不安なのかなと想像しています。この本を読んだ人が「『虚弱』の人はみんなこうなんだ〜」と思ってしまったら私も困るので、なるべく自分の話だけを書こうと意識しました。 ――「虚弱」とひとことで言っても、本一冊分になるくらいの事情を抱えているし、あくまでこれは一例であって、「虚弱」な人の背景にはそれぞれ同じくらいの事情があるかもしれない、と想像することで、相互理解が深まるかもしれません。また、エッセイは自分のことを書くものですけど、この本には体調にまつわる情報以外にも、大学進学の経緯、年収を含めた経済状況など、さまざまなことがつまびらかにされています。正直抵抗はありませんでしたか。  終電:書かずに済むのであれば書きたくないんですけど(苦笑)。たとえば、大学時代から同じ名前でSNSをやっているので、少し調べたら「早稲田大学卒」という経歴はわかってしまいます。「読んだ人が疑問に思うだろうな」ということをすべて説明しようと思ったら、芋づる式に出てきちゃって、結果的に全部書いちゃったっていう。 ――読み手に対して誠実ですね。すごく情報が詰まっていて、実用書としても役に立つと感じました。 終電:誠実というか、単純にあとから色々言われるのが嫌なだけです(笑)。自分ではあまり実用的と思わずに書いていたので、役に立つと言っていただけるのはよかったです。 <取材・文/藤谷千明 撮影/山川修一> ※次ページより、『虚弱に生きる』収録の「二十一歳で身体にガタが来た」の試し読みができます
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二十一歳で身体にガタが来た
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