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体力がないと、読書もできない。30歳女性が実感した「人並みの健康」を目指す難しさ

 発売前からSNSを中心に大きな反響を呼んでいるエッセイ『虚弱に生きる』。「体力がなさすぎて就職できない」「眼鏡をかけたら不眠症が治った」「生理のない女になりたい」など、著者・絶対に終電を逃さない女さんのリアルな経験や感情がつづられています。
虚弱に生きる (扶桑社BOOKS)

虚弱に生きる

 後編では、絶対に終電を逃さない女さんに、現代社会の働き方についてや、文筆家なのに本があまり読めない実情、そして「虚弱」という言葉の向かう先について伺いました。 記事の後半では『虚弱に生きる』収録の「美容の八割は健康」の試し読みをお届けします。

病気の検査自体にまずお金や時間がかかる

――この本では、さまざまな検査や診断の詳細なエピソードも収録されています。身体に不安があるなら検査は受けたほうがいいのは前提として、実際問題お金や時間を捻出するのがまず高いハードルであることが書かれています。 絶対に終電を逃さない女(以下、終電):そうなんですよ。血液検査やレントゲンだけで5000円くらいかかることはザラですし、1万円以上かかる検査も少なくありません。長い時間のかかる検査もありますから、スケジュールも調整して準備しないといけない、病院によっては紹介状が必要になりますし。……で、それでまた何の病名もつかなかったってなると、経済的にも精神的にも辛いので、もう嫌になってしまう。
絶対に終電を逃さない女さん

著者の絶対に終電を逃さない女さん。一番好きなバンドがOasisということで、先日行われた東京ドーム公演のTシャツを着用している

――フリーランスの場合はその時間のお金は保証されませんし、会社員の場合は仕事を調整して休みをとらなくてはいけません。「人並みの健康」を目指すことの難しさは色々なところにあります。 終電:これまでも「虚弱」に関する記事を公開すると、Twitterなどで「こういう病気なんじゃないか、検査をお勧めします」と言われることも多々ありました。そして、これは私が言われたわけじゃないのですが、「ちゃんと検査した上で原因がわからなくて『虚弱』ならいいけど、それすらしてないのは〜」みたいなことを言ってる人を見かけたこともあります。でも、検査だってそんな簡単にいかないのに……とは感じます。 ――「虚弱」でなくて、「原因が特定できないけど、身体が辛い」ということに身に覚えのある人も多いと思うんです。 終電:対談や記事、本の感想を見ていると、「著者ほど虚弱ではないけど、わかる」みたいな声は多いです。「普通レベルの体力の人だってフルタイムで働くのって普通にしんどいときはあるから、こういう虚弱な人が、世間に認知されることによって、もうちょっと日本の働き方がゆるくなったらいいね」という声もあって、その通りだなと思いました。 ――障害者手帳の取得など福祉制度に関する話や、体力づくりのために公営スポーツセンターを利用するなどの行政施設の活用も本に書かれてました。意外と知らなかったことも多く、ためになりました。 終電:公営スポーツセンターって意外と空いてる施設も多いんですよ。私はお金がないので、なるべく使うようにしてます。福祉を使うことに批判的な人もいるけれど、私は頼らないと生きていけない立場だから、思い切って書きました。これを読んで福祉を使う人が増えて、制度がもっと充実すればいいなと思ってます。

本を読むのにも、積読にも体力がいる

――この本は、淡々と冷静でありつつユーモラスな文体が印象的です。好きな作家や影響を受けた本を教えて下さい。 終電:実は、特定の作家をあまり読んでこなかったんです。読んできた本を説明すると、小学校5年生の時に転校して友達ができなくて、学級文庫に置いてあった児童文学、といっても古典じゃなくて講談社のYAシリーズのような、小学校高学年〜中高生向けの小説を読んでいました。中学以降はいわゆる一般文芸と呼ばれる小説も読むようになって、綿矢りさはすごく好きで、影響を受けたかもしれないです。 大人になって、「一応文章のプロなんだから読まないと」と意識して読んでいるうちに、向田邦子や西村賢太だったり、穂村弘だったりと好きな作家が増えたという感じなんです。あんまり『虚弱に生きる』に繋がる話じゃないかもしれませんが。 ――毎回きっちりオチがついているというか、ひとつのエッセイとしてまとまりがあるのは、向田邦子さんっぽいなと読んでいて感じました。 終電:なんか、オチをつけちゃうんですよね。もともとそういう文章が好きなのかもしれないです。そもそも、エッセイをあまり読んできていないので、さっきあげたような小説の影響のほうが強いような気もしています。物書きなのに本を沢山読めないんです。家に本が少ないですし。 ――本の中でも、体力などの問題で読める本の量が少ないとありましたね。 終電:集中力がなく時間もかかるため、月に三冊読めたらいいほうです。読書は体力の問題だけでなく、本を買うお金と、本を置いておくスペースも必要ですよね。引っ越すとなった時には、さらに本を運ぶ体力が必要になります。本を買うときは、そういったことが頭によぎってしまいますね。 ――芥川賞を受賞した市川沙央さんの『ハンチバック』(文藝春秋)の作中で、紙の本を読めることを当然とするのは特権であると指摘がされ、「読書バリアフリー」という言葉が話題になりました。それ以後、文芸誌などの電子化も進んでいったように思います。 終電:割と多くの人が感じていたけど言いづらかったことを、市川さんが書いてくれたから、世の中が動いたんじゃないでしょうか。やっぱり声を出すことって大事なんだなと思います。
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「セルフケアをすべき」とは言いたくない
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